2019年11月4日月曜日

「年金未払い学生」だった48歳以上の人はヤバイ 将来、国民年金を満額もらえない可能性が

政府による5年に1度の「年金財政検証」の結果が8月末に公表されました。年金水準は約30年後に現在より約2割下がる見通しなども示されましたが、公的年金が老後の大きな支えであることに、変わりはありません。日本の年金制度は「2階建て」になっています。国民年金(老齢基礎年金)が土台の「1階部分」で、保険料は月1万6410円(2019年度)。40年間保険料を納めた人が65歳から受け取り始めると、年金額は月約6万5000円です。会社員や公務員の場合、これに上乗せする「2階部分」の厚生年金にも加入し、より多くの年金額が受け取れます。毎月の給料から、原則厚生年金に含む形で国民年金の保険料も天引きされています。会社員は、1階と2階部分の保険料をまとめて支払い続けているのです。ところが、現在48歳以上の会社員は、もしかすると、大学卒業後にずっと会社勤めを続けていても、1階部分の国民年金を満額受給することができないかもしれません。国民年金が「任意加入」だった頃に学生時代を過ごし、任意で(自分の責任で)年金に入っていなかった、という扱いになっている可能性があるからです。
■「任意加入」時代に保険料を払わなかったツケ
国民年金は現在、20歳以上・60歳未満のすべての人に加入する義務がある「強制加入」の制度です。20歳以上の学生も、強制加入ですから保険料を払う義務がありますが、全体の65.3%が「学生納付特例制度」を利用しています。これは申請により在学中の保険料納付が猶予される制度です。この猶予期間については10年以内に国民年金保険料を追納すれば、将来もらえる年金額に影響はありません。でも、現在50歳前後の人が学生の頃、国民年金は強制ではなく、任意加入でした。20歳以上の学生でも国民年金が強制加入となったのは、1991年4月からです。それ以前の1961年4月?1991年3月に学生時代を過ごしたことのある人たちが老後の受給額で問題に見舞われるかもしれません。具体的には、1971年3月までに生まれた、現在48歳以上が当てはまりますが、その年代の人たちが20歳以上の学生だった頃に国民年金に入っていないと「任意未加入者」として扱われ、老齢基礎(あるいは65歳から受け取る)年金額で損することになるのです。具体的なケースで見ていきましょう。先日、ご相談に来られた会社員Aさんは1964年1月生まれの55歳、まさに「任意加入世代」でした。ねんきん定期便を拝見したところ、国民年金の加入期間は「0月」。大学を卒業してから会社員として働き続けてきたので厚生年金に加入してきたわけです。しかし学生時代に国民年金には加入していません。詳しい加入記録をねんきんネットで確認すると、1984年1月から1987年3月まで39カ月間が未加入でした。Aさんは1浪したので、20歳から23歳まで未加入の期間が3年余りと長引いていました。その結果、Aさんの老齢基礎年金の受給予定見込額は71万5092円と、19年度の満額受給額78万0100円に比べ6 万5008円少ないことがわかりました。仮にAさんが65歳から90歳まで年金受給すると、受け取り総額は満額に比べて162万5200円も少なくなります。Aさんはこの事実を知り、衝撃を受けたようでした。「学生時代の任意加入は親から耳にした記憶があります。就職したら厚生年金に加入するのだから国民年金も満額もらえるはずと、親も自分も軽く考えていました」と言います。
■60歳以降も保険料を納めると、年金額を増やせる
Aさんのように、国民年金が任意加入だった時代に加入しなかった場合には「任意未加入者」として扱われます。任意未加入期間については合算対象期間とされ、受給資格期間にカウントされるものの、年金額には反映されません。受給資格期間には含まれるのに年金額には反映されないので、「カラ期間」とも呼ばれます。Aさんはこのまま60歳まで厚生年金に加入すれば国民年金にも40年間加入したことになりますが、「カラ期間」があるせいで老齢基礎年金を満額もらえないのです。国民年金の保険料を納めることが可能な期間は、保険料の納期限から2年間です。特例措置として、納期限を延長する後納制度が設けられていましたが、2018年9月末で終了しました。「カラ期間」については保険料を追納することができないのです。Aさんは「万事休す……ですね」と落胆しました。しかし、満額の老齢基礎年金をもらえない人や、加入期間が受給に必要な10年に満たない人は、60歳以降に保険料を納めることができる「任意加入制度」があります。60歳以上65歳未満の5年間(納付月数480カ月まて゛)に国民年金保険料を納めることで、65歳から受け取る老齢基礎年金を増やすことができるのです。例えば、Aさんが60歳以降、任意加入制度を利用して国民年金の保険料を39カ月間納付した場合、納付総額は63万9990円で、年金増加額(年額)は6万3383円になります。これらの金額は令和元年度ベースでの試算ですが、Aさんが65歳から76歳まで約11年間年金受給すれば、年金増加額が保険料納付額を上回ることになります。
ただし、任意加入制度には4つの条件があり、すべてクリアする必要があります。①日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満であること、②老齢基礎年金の繰り上け゛支給を受けていないこと、③20歳以上60歳未満の保険料納付月数が480月(40年)未満であること、そして④厚生年金に加入していないこと――です。Aさんは3つ目までの条件をクリアしています。しかし4つ目については、60歳以降の働き方をどうするか、ということに関わってきます。現在、Aさんが勤務する会社の定年は60歳。それ以降は1年契約の嘱託社員になる再雇用制度があります。60歳以降も再雇用されて働く場合、厚生年金に加入し続けることになり、任意加入制度は利用できません。Aさんは60歳で退職し、個人事業主として起業することも考えていました。その場合は、厚生年金には加入しないことになりますから、国民年金の任意加入制度を利用できます。
■厚生年金も加入期間が長いほど、年金額は増える
ただ、Aさんにとって悩ましいのは、厚生年金に加入し続けると、任意加入制度が利用できないので老齢基礎年金(国民年金)を増やせない一方で、老齢厚生年金(厚生年金)の受給額は増やせるということです。しかも、60歳以降に厚生年金に加入すると、老齢厚生年金の経過的加算額が支給されるのです。厚生年金は加入年齢によって反映される年金が異なります。20歳から60歳までは老齢基礎年金+老齢厚生年金(報酬比例部分)、20歳以前と60歳以降は老齢厚生年金(報酬比例部分)+老齢厚生年金(経過的加算額)になります。つまり、60歳以降の厚生年金加入は、増えない老齢基礎年金を穴埋めする形にもなるのです(ただし、今の制度では70歳以降は厚生年金に原則として加入できません)。Aさんが60歳以降に39カ月厚生年金に加入すると、老齢厚生年金(経過的加算額)は6万3763円になります。納める厚生年金保険料は月2万7450円の39カ月分で107万550円です。国民年金の任意加入制度を利用する場合に比べ約43万560円多く保険料を納めることになりますが、Aさんが65歳から90歳まで年金受給する場合、受け取り総額は319万7275円と任意加入制度の場合より161万2700円多くなります。こうした制度について全然知らなかったAさん、60歳以降の働き方として「嘱託社員も悪くないですね」とのこと。60歳まであと5年、選択肢と対策がわかったことで不安が軽減したようでした。もう1つ、Aさんにお伝えしたのは、現在扶養内でパートをしているAさんの奥様について「扶養を外れて社会保険加入を考えたほうがいいかもしれない」ということです。というのも、年金財政検証の結果から、将来的に社会保険の扶養は縮小されることも予想されるからです。簡単にいうと、厚生年金加入者が増えれば年金財政はプラス効果が見込めるため、今後は扶養のバーが下がることも想定しておくべきです。
三原 由紀:プレ定年専門ファイナンシャルプランナー
東洋経済オンライン / 2019年11月2日 8時0分