2022年6月26日日曜日

NHK受信料「死後も請求」が話題に、遺族が悩む故人のサブスク解約の対処法

 亡くなった人の銀行口座からNHK受信料が引き落とされ続けていたことが判明。NHKは死後も支払いを止めてくれないのか……春先、そんなことが話題になった。しかし、こうした事態が起こるのはNHKだけではない。各種サブスクサービスが花盛りな昨今、遺族に請求が届くケースは今後ますます増えてくる。もし家族や親しい間柄の人が定額制サービスの契約を残して亡くなってしまったら、遺族はどう対応するのが正しいのだろうか?(ライター/ジャーナリスト 古田雄介)

●亡くなった人の口座から、 NHK受信料が引き落とされ続けていた

急死した一人暮らしの親戚の遺品を整理した際にNHK受信料が引き落とされ続けていることが判明。支払いを止めて、死後の支払い分を取り戻すために悪戦苦闘をした……春先、そんな苦労をした人のツイートがネットで話題になった。亡くなった人がテレビを見ているわけがないのに、支払いを止めてくれない。当人以外が手続きするとなると手間は本人のとき以上で、事態を収めて損失を取り戻すには膨大な書類と交渉が必要になる。遺族側からすると実に不条理な状況といえる。ただ、筆者はこの話題を知ったときに既視感を覚えた。似た事例をサブスクリプション界隈でもよく耳にしているからだ。

●定額制サービスからすると、契約者の生死は分からない

毎月、あるいは年単位で一定の支払いが発生する(お金が引き落とされる)という点では、最近増えているネットの各種サブスクリプションサービスも同じである。NHKにもサブスクリプションサービスにも、契約者の生死を自動で検知する仕組みは存在しない。継続支払いの設定になっているなら、遺族や代理人からの連絡がない限り、契約者の身に何が起きても変わらず支払いが続くのが一般的だ。だから、残された側は頑張って対応窓口を突き止めて、事態を説明したり必要な書類をそろえたりするしかない。NHKの場合は、解約手続きには全国共通の窓口として「NHKふれあいセンター(営業)」を設けているほか、払込用紙などに記載している各地域の放送局や営業センターでも対応している。いずれも電話対応が原則となっており、受付時間が限定されている上、つながりにくいという声もある。ただ、対応窓口としては比較的見つけやすいほうだ。苦労するのは、ヘルプページから解約の方法にすらたどり着けない場合だ。あるサブスクサービスは、奥まったところに置かれた解約メニューに2段階認証を設定しており、認証を経ても翻意を促すキャンペーンページをスクロールしないと手続きが進めない構造になっていた。ページ下段の「解約します」を押してもなお次のアンケートページで翻意できる作りになっていて、そこでもう一度「解約します」と意思表明することでようやく解放される。契約者本人でも相当面倒で、遺族の立場では到底達成できそうにない。こうした状況を踏まえてか、5月25日に可決・成立した改正消費者契約法では、定額制サービスを提供する事業者の努力義務として「解除権行使に必要な情報提供」が盛り込まれた。将来的には運営元に直接アプローチすればほぼ問題なく解約できるようになるかもしれない。業界全体での今後の改善を期待したい。ここまで読んで、個別に手続きするよりも、銀行やクレジットカードなどの自動引き落とし先を止めたほうが手っ取り早いと思った人もいるだろう。しかし、むしろそちらのほうが茨(いばら)の道かもしれない。そこが本記事で伝えたいところだ。

●サブスクの支払いがあるからと クレジットカードを退会できないケース

「自動引き落とし先をストップすれば、継続的な支払いが止まる」という認識は、残念ながら甘い。筆者は5年ほど前からデジタル遺品に関する相談をサイトで受け付けているが、過去にこんな話を本人から聞いたことがある。中部地方に暮らすAさん(60代)は、1年前に実家で一人暮らしをしていた兄を亡くした。遺品整理を進めるなかで、祖父の代からの不動産や生命保険の確認など難題がいくつも現れたが、なかでも手を焼いたのがクレジットカードの退会手続きだったという。クレジットカード会社の窓口は、事情を伝えても「債権が残っているので退会できない」と譲らない。毎月1200円ほどの引き落としがあり、その債権が止まないと退会手続きに進めないのだという。それでいて、プライバシー保護の観点から債権の詳細は教えられないとのこと。閉口するしかなかったが、粘り強く交渉しているうちに支払い元の情報が少しずつ見えてきた。手元の情報と照らし合わせたところ、どうやら動画配信サービスと英会話アプリの月額課金が残っていると判明。それぞれのサービスに掛け合って解約したところ、ようやくクレジットカードを退会することができたそうだ。また、長年相続関連の仕事をしているBさんからは、亡くなった家族の銀行口座を凍結したところ、その後も毎月500円の出金が続いた事例があり、対応に苦労したとの話も聞いた。こちらも定額サービスの自動引き落としによるものらしい。

●定額制サービスの料金のほとんどが 銀行かクレジットカード経由で支払われる

NHK受信契約の約8割が自動引き落としで支払われているように、定額制サービスの対価の多くは銀行やクレジットカード会社を経由している。それゆえに見落としがちだが、定額制サービスの提供元と自動引き落とし先は別物であり、情報も共有されない。ただでさえややこしい定額支払いの停止手続きが、自動引き落とし先という新たなステークホルダーが加わることで、さらにややこしくなってしまっているのだ。

●銀行の原則は 「口座を凍結したら振替も停止」

間に挟まった自動引き落とし先では、何が起こっているのか。主要な銀行とクレジットカード会社に実情を尋ねてみた。まず銀行はメガバンクとネット銀行を含めた全国規模の8行に情報提供をお願いし、5行から回答を得た。口座の持ち主の死亡が遺族等によって知らされると、銀行は口座を凍結する。口座振替のある口座はその後どうなるのか。回答を得た銀行ではいずれも「停止する」との回答だった。「預金者死亡の連絡を受けた場合、債権の有無に関わらず、ご預金等のお引き出し、ご入金についてはお取扱いができなくなり、口座振替も停止となります」(みずほ銀行)出金が続く可能性があるとすれば、相続人から口座振替の継続の希望を受けたシチュエーションだが、それも例外的な処理といえる。三菱UFJ銀行は「事前に特定の明細について、従来通り被相続人の口座からの引き落としを希望する依頼書を相続人全員の署名の上受入れしている場合、その明細のみ支払いを許容する手続きもございます」という。ただ、これは銀行側の都合だ。定額制サービスを提供する運営元は契約者の生死を確認できないし、銀行から伝える義務もない。実際、凍結後に請求が届くことも珍しくないという。それでも、「生前お支払いに当社のデビットカードを登録されており、相続開始後に請求が到着した場合、故人口座には請求できないため、当社では原則として当該請求を加盟店(請求元)に返却する対応を行います」(ソニー銀行)といったスタンスが一般的といえる。

●個別の事情に応じて 柔軟な対応をしてもらえることも

一方で、三菱UFJ銀行が特定の明細のみ支払いを継続するケースを認めているように、個別の事情に応じて柔軟に対応している様子もうかがえる。Bさんから聞いた事例は5行とも経験がないようだった。しかし、別の金融機関が何らかの事情から特殊な措置として、そうした措置を行っている可能性も否定できない。ただ一般論としては、凍結中は原則として口座振替を継続しないのは確かなようだ。そして、銀行側から定額制サービスの運営元へ、契約者の生死に関わる情報が自動で伝わるような流れも確立されていない。

●クレジットカードは 退会後も請求が継続しうる

クレジットカードも主要な8社にアプローチし、6社から回答を得た。こちらも契約者の生死を知りようがないため、遺族等から連絡がない限りは自動引き落としの処理が継続することになる。死亡の連絡を受けたら退会の手続きを進めることは可能だが、預金口座の凍結のように直ちに処理するわけではない。あくまで遺族等の希望に基づいて処理を進めるというスタンスだ。いずれもカードも定額制サービスとの契約は事前に解約した上での退会を促しているが、イオンカードが「支払い義務(債権)が残っている場合であっても退会は可能です」というように、回答を得た中では債権が残った状態でも退会手続きを止めるケースはなかった。Aさんのケースは特殊事例なのかもしれない。ただし、あるカード会社は匿名で「支払い義務が残ったまま退会されると後々面倒なことになることも。それを防ぐための対応としてはあり得る措置といえます」と見解を教えてくれた。

●サービスを停止せずにクレジットカードを 退会するとどうなるのか

注意したいのは退会後だ。債務ありの状態で退会すると、その債務の請求が後日届くことになる。クレジットカードは決済と請求までタイムラグがあるため、単発の決済であっても翌々月支払いということも普通にあるし、定額制サービスの契約が継続している場合は数カ月先まで請求が届くということも起きてしまう。「基本的にはカード解約後にカード支払いをご利用いただけませんが、サブスク等については、ご利用先に契約解除の連絡をしていただくまで利用が継続する場合がございます」(セゾンカード)クレジットカードを退会しても、退会前にした買い物や契約には影響を及ぼさない。「各種サービス料金の支払契約は、あくまでお客様とサービス提供業者間で取り交わされたものです。第三者である弊社はその契約関係には入り込むことはできかねます」という三井住友カードの回答が端的だ。この原則に従えば、遺品整理時に気付かれなかった定額制サービスの支払いはその後も延々と続くことになる。しかし、何年も請求が続いて困ったという声は聞かない。今回得た回答でも、数カ月先までの請求が続くというタイムスケールで言及する企業が大半だった。年額支払いの請求が絡んで、せいぜい2年弱だ。どうやら、現実としては半永久的に請求が続くというわけでもないらしい。あるカード会社は「退会後に定額制の請求が続く場合は、債権を回収管理する部門があり、そこから退会したお客様やご遺族に契約解除や支払い方法の変更を促しています。それと同時に、水面下では定額制の提供元にも停止をお願いすることもありますが、応じてくれるか否かはまちまちです」と明かす。つまるところ、支払いが滞った後のスタンスは定額制サービスがどう動くかにかかっているといえる。

●引き落としが止まった後に 郵送で請求書が届くケースも

定額制サービスを提供する立場からすると、契約者が亡くなった後にいつまで請求を続けるかは判断が難しい。何しろ生死を正確につかめる手段はない。そのため、遺族からの申請をきっかけに契約を終了するとしているケースが多いようだ。NHKも解約の届け出があった日を解約日とすることを原則としている。遺族等により要望があった場合は住民が亡くなった日までさかのぼっての解約とする措置も個別に応じているが、それは例外的な対応だ。例外ゆえに、契約者の死亡やその後の利用状況を含む多くの証明が必要になるなど手続きは煩雑になってしまう。しかし、口座振替やカード退会で支払いが滞った際は、請求書を郵送する形で支払いを促すケースも増えている。葬儀を終えた数カ月後に故人名義の請求書が届いたという話は、ここ数年でよく耳にするようになった。支払い滞納分を含めても数千円程度という比較的少額の請求も珍しくない。一方で、お金の流れが滞った時点で解約とみなすケースもある。典型例はマイクロソフトだ。同社はオフィススイートアプリやクラウドサービスなどを定額制で提供している。その契約者が亡くなった場合は、遺族等が代理でログインしてサービスの停止を申請することを認めているが、IDとパスワードが分からない場合は「お客様の銀行口座やクレジットカードの停止、承認の取り消し、または銀行への通知を行うことで停止することができます」と明言している。定額制サービスのすべてがマイクロソフト型の対応をしてくれれば、口座の凍結やカード退会で一網打尽が可能だが……。残念ながら、いまのところはサービスごとに対応がバラバラだ。

●もし、故人が契約していた定額制サービスを 解約することになったら

以上を踏まえて、遺族の立場から、故人が残した定額制サービスの契約はどうしたらいいのか対応を考えたい。理想を言えば、すべての定額制サービスを個別に調べて、それぞれに沿った形で解約や引き継ぎを進めていくのが安全だ。しかし、あまたのサブスクや定額制サービスを利用している人の全契約を正確につかむのは難しいだろう。Apple IDやGoogleアカウント、通信キャリアの月額支払いにまとめられたサブスクなどは、お金の流れからたどっても個別に探すのは至難の業だ。それぞれの契約に気付けたとしても、故人のアカウント名を突き止め、解約の窓口をそれぞれ調べて、それぞれに必要な書類をそろえるとなると相当骨が折れる。正直、定額制サービスの提供元が求める手続きのすべてを遺族が完遂するのは不可能だと思う。だとすれば、現実との折衷案を組み立てるしかないだろう。

(1)通常の遺品整理の過程で特定できた定額制サービスは、個別に解約や名義変更などの手続きをする。

(2)その上で、口座の凍結やカードの退会を済ませる。

(3)その後にさまざまな形で請求が届くことを想定し、1~2年程度はアクションがあるたびに個別に支払いや解約などを進める心構えだけしておく。

2022年6月時点では、この3段構えの対策が現実的ではないかと思う。


2022/6/22(水) 6:01配信diamondonline


ネットカフェの天下統一!快活CLUBが、倒産相次ぐ業界で“独り勝ち”したワケ

 インターネットが身近になった結果、ピンチに陥っている業界がある。インターネットカフェ業界だ。10年以上前は「通信料や家族の目を気にせず、自由にネットが使える」という環境が貴重だった。しかし、2012年にはスマートフォンの普及率が50%を上回った。このころからネットにアクセスできる環境が当たり前となり、ネットカフェの人気は低迷。さらにコロナ禍が追い打ちをかけ、約10年間で2000億円を超えていた市場規模が約1000億円に半減したという。帝国データバンクによると、20年度にはネットカフェ・マンガ喫茶などの「複合カフェ」を主力とした企業が10件倒産した。そんな中で、“独り勝ち”しているのがAOKIホールディングス傘下の快活フロンティアが展開する「快活CLUB」だ。売上高、店舗数はいずれも19年度まで右肩上がり。20年度は新型コロナウイルスの影響でマイナス成長となったが、21年度で売上高は19年度(583億8800万円)の97%である569億3300万円まで復調している。沈みゆく業界の中で、成長を続けられる秘訣はどこにあるのか。快活フロンティアの常務取締役、中川和幸さんに話を聞いた。

●他社と何が違うのか?

快活CLUBが他社と最も違う点は「全国505店舗(6月時点)の全てが直営店であること」だと中川さんは話す。ネットカフェ業界の中堅・大手ではフランチャイズ形式で出店数を伸ばしている企業がほとんどで、この業態はかなり珍しい。では、直営店とフランチャイズの一番の違いは何か。それは、出店スピードだという。中川さんは「出店を拡大しようと計画を立てたときに、一気に舵を切って進められます。例えば19年度には1年で85店舗出店しました。20年度は50店舗、21年度は29店舗とコロナ禍でも出店を進めています」と説明する。設備投資の面でも、直営店の強みがある。「大きく違いが出るのは、PCです。PCのスペックは年々高くなっていて、処理速度がかなり異なる。われわれは全てのPCを3年に1度入れ替えています。また、ソファやマットについても、定期的に交換しています」と中川さんは話す。フランチャイズ店では、オーナーの意向によって設備投資のレベルにばらつきが出ることが多い。特に、売り上げが低迷した場合には、十分なメンテナンスや入れ替えができないことがある。しかし、直営店のみの同社の店舗では、設備投資のレベルを統一できる。こうした店舗の品質の良さが、快活CLUBのブランドを作ってきた。中川さんは「実はインターネットカフェの利用料金は、店舗によってそれほど差がありません。『だったら、こっちの方が良いね』とお客さまの選択が(快活CLUBに)集約してきた。それが当社がシェアを伸ばせている要因になっているのではないかと思います」と笑顔を見せる。

●AOKIホールディングス、物件確保の秘訣は

快活フロンティアを語る上で欠かせないのが、同社がAOKIホールディングス傘下の企業だということだ。スーツ販売の「AOKI」と「ORIHICA」、カラオケ店の「コート・ダジュール」、フィットネスの「FiT24」などのブランドが同グループにある。中川さんは、グループでさまざまな店舗を運営しているため、物件の確保が有利になっていると説明する。「新規出店にあたり、物件交渉は大きなポイントです。物件を探す部署は、快活フロンティアの社内ではなく、AOKIホールディングスに所属して(グループ内の物件交渉を)一括で担当しています。なので物件を探し、条件に合わせて『この物件は快活CLUBに』『この物件はAOKIに』『この物件はコート・ダジュールに』と振り分けをしています。選択肢が多いので、物件のオーナーさまの要望に合わせやすいという特徴があります」また、需要や売り上げ状況に合わせてAOKI店舗を快活CLUB店舗にリニューアルする手段もある。さらに、広い面積が確保できる場合は、AOKIと快活CLUB、FiT24と快活CLUBなど複数店舗の抱き合わせで土地を活用している。「直営でブランドも多くあるため、オーナーさまに『長く続けてもらえそうだ』と安心感を持っていただきやすいという点もあるかもしれません」(中川さん)

●社員やアルバイトの人材交流も

こうしたグループ内でのシナジー創出は、出店時だけにとどまらない。社員とアルバイトの双方を対象に、複数店舗で働いてもらうことで、適正な人数で店舗を運営できるようにしているという。

「昨年から、グループ間の人材交流を進めています。AOKIなど紳士服の業界は基本的に夏場が暇で、新社会人の方などがスーツを購入する2~3月が繁忙期です。それに対して、インターネットカフェやカラオケが忙しいのはゴールデンウイークや夏休みの時期です。AOKIの閑散期に余ってしまう人材に、快活CLUBの店舗に入ってもらったり、反対に他形態の繁忙期にこちらから応援に行ったりという活動です」(中川さん)

特にスーツ販売のアルバイト人材では、夏場などの閑散期には思うようにシフトに入れないことがある。どの業態も店舗でお客さまに案内をするという点は共通している。別のアルバイト先を探すより楽だと、この制度を利用する人は多いそうだ。また、人によっては「昼が空いている日はAOKIで働き、夜が空いている日は快活CLUBで働く」といったように、人手が足りない時間の違いを生かしたダブルワークも可能としている。「これにより、グループ全体での人件費の効率化につながっています」と中川さんは説明する。

●快活CLUBが抱える危機感

このような取り組みで、シェアを伸ばし業界の圧倒的1位を独走する快活CLUB。しかし、危機感も併せ持っている。中川さんは「ネットカフェは『することないから』など、余暇の需要で使われるものです。しかし、利用用途を広げて、これまでネットカフェを使ったことのない人も取り込んでいかないと市場は広がらないと思います」と話す。ネットカフェを日常的に使う人は、中小企業基盤整備機構が実施した調査(17年)によると14%。快活フロンティアで実施した調査でも16%(21年)と、約15%程度であることが分かっている。つまり、残りの約85%の人は普段ネットカフェを活用していない。市場規模の減少に歯止めをかけるには、多くの人の選択肢に入り、活用の幅を広げることが重要だ。

●「ネットカフェに行きたい人」以外をどう取り込むか?

そのための施策の一つとして、10年ほど前からランチをはじめとする食事の提供にも力を入れてきた。当然だが、「ネットカフェに行きたい」と考える人よりも「ランチをどこかで食べたい」と考える人の方が人口が多い。そうした客層にも来店してもらうことで、ユーザーの幅を広げてきた。ランチに目を付けた理由は、「当時の社長が“愛知県出身だった”ことがきっかけです」と中川さんは説明する。「インターネットカフェの前身はマンガ喫茶です。そしてマンガ喫茶は愛知県で『喫茶店の空いたスペースに、お客さまが喜ぶだろうからマンガを置いてみようか』という形から始まったと聞いています。愛知県は、モーニングでも有名なように飲食店のサービスに尋常じゃなく力を入れているお店が多いんです」(中川さん)そんな文化を良く知る当時の社長の意向で、ドリンクだけではなく食事も十分に出すシステムを整備してきた。ただし、「飲食店は諸刃(もろは)の剣でもあります」と中川さんは話す。「なかなか人手がかかります。今は特に、人手の確保が大きな課題ですから、エリアによって分けて考えています」

取材をした赤坂見附店(東京都港区)では、食事の提供はしていない。周囲にコンビニや飲食店が多いエリアなので、周囲で買って持ち込んでもらう方針だ。一方、カフェ文化が根付く愛知県や静岡県、また冬場に移動を嫌う東北エリアなどでは食事の利用が特に好調なのだという。

また、利用客を広げるために、コロナ禍以降はテレワークで利用するビジネスパーソン向けの施策に力を入れてきた。

●ネットカフェの天下統一、次なる課題はどう解決するのか?

こうしたさまざまな戦略で、快活フロンティアはシェアを伸ばし、勝ち上がってきた。快活CLUBの複合カフェ業界内でのシェアは、店舗数で33.3%、売上高で39.6%(複合カフェ協会のデータから試算、2020年度)。以下に続く企業は店舗数・売上高ともに10%に満たず、一強他弱の状態だ。さらに5月には、AOKIホールディングスが業界2位の店舗数を誇る「スペースクリエイト自遊空間」を運営するランシステムと資本提携を結び、子会社化。これにより、グループ全体で複合カフェ市場の店舗数の42.6%を占める形になった。かつて多くの企業が参戦し、戦国時代状態だった複合カフェ業界を、AOKIグループが天下統一したと言って差し支えないだろう。


ITmedia ビジネスオンライン / 2022年6月19日 14時20分


2022年6月14日火曜日