2017年3月26日日曜日

「人として終わってる」――“情報弱者”を狙う「悪質ポイントサイト」ビジネス手口や集客方法を関係者に聞いた

「manekin」や「キラキラ☆ウォーカー」といった、ポイントサイトの偽キャンペーンが相次いで問題になってからおよそ1カ月半。一時は新規登録受付を停止していたこれらのサービスですが、「キラキラ☆ウォーカー」は既にサービスを再開、manekinについても、関係者によれば近々復活を予定しているとされています。
今回のケースでは、牛角や吉野家といった企業の名前やロゴを無断で使用し、「吉野家牛丼15000円分食べ放題キャンペーン」といった“偽のキャンペーン”をうたっていた点が大きな問題とされていました。しかし、あるアフィリエイト広告関係者は次のように指摘します。
アフィリエイト広告関係者:「彼らにはサイトを閉じる気もないし、今回も「1回言われただけならワンアウト」程度にしか感じていないと思います。偽キャンペーンはあくまで問題の1側面にすぎず、彼らのビジネスの仕組みそのものが規制されないかぎり、今後もサービスは続けるでしょう」
――なぜ悪質ポイントサイトは儲かるのか、彼らはどうやってユーザーを集め、利益をあげているのか。「ガチャ無料引き放題の裏技見つけたwww」などの2ちゃんねるまとめ風広告は誰が作っているのか。悪質ポイントサイトの仕組みと実態について、関係者や実際に被害にあった人、出稿していた企業などに取材しました。

●大手3グループが悪質サイトの9割以上を運営
「ポイントサイト」とは、指定のアンケートに答えたり、広告をクリックしたりといった依頼をこなすことでポイントが得られ、一定量たまると電子マネーやプリペイドカードなどと交換できるサービスのこと。サイト側は“依頼”として企業からの広告を掲載し、ユーザーはその広告費の一部をポイントとして受け取る――というのがポイントサイトの基本的な仕組みです。こうしたサービスは2000年代中ごろには既に存在しており、これ自体は何ら怪しいものではありません。実際、ポイントサイトの中で悪質なのはごく一部で、きちんと運営されている「安全なポイントサイト」も数多くあります。あるアフィリエイト広告関係者によれば、悪質ポイントサイトの9割は、「manekin」のメディアラスタライズ、「キラキラ☆ウォーカー」のヴィヴィット、そして「ポイントGO」「ポイントモール」などを運営するアドラインプラスの3系列が占めているとのこと(“系列”と書いたのは、1社で複数のサイトを運営していたり、別会社を作って別名義で運営しているケースもあったりするため)。ちなみに、これらのポイントサイトはいずれも「PMC」と呼ばれる共通システムを使っており、サイトは無数にあっても、名前やデザインが違うだけで内容はどれもほとんど同じです。この「PMC」を開発・提供しているVERVEも「悪質ポイントサイト側」の企業の1つだといいます。
アフィリエイト広告関係者:「彼らを排除してこなかった業界側にも責任はあると思っています。彼らの存在が大きくなりすぎて、『悪質サイトがある』という状態が当たり前になってしまっていた。悪質サイトへの広告出稿をせき止めるなど、もっと内側から協力して排除に動くべきでした」
こうした悪質サイトの多くは運営元を明らかにしておらず、また頻繁に名前を変えたり、新しいサイトを立ち上げたりするため、パッと見ただけでは安全なサイトと見分けがつかないようになっています。例えば「manekin」のメディアラスタライズは「ポイントリッチ」というサイトも運営していましたが、騒動後は「ペタリッチ」という名前に変更しており、また運営元がメディアラスタライズであることも記載していません。しかし、関係者によれば、悪質かどうか「一発で見分ける方法がある」と言います。
アフィリエイト広告関係者:「そのサイトが悪質かどうかは『最低換金可能ポイント』を見れば分かります。1000円以下ならちゃんとしたサイトで、それ以上は危ない。そこだけ分かっていれば大丈夫です。悪質サイトのほとんどは1万5000円に設定していて、2000円や3000円といった“中間”は見たことがないですね。1000円以下か、1万5000円かで悪質かどうかは100パーセント見分けられます(※)」
※あくまで取材時点であり、今後手口が変わる可能性はあります
実はこの「1万5000ポイントから換金可能」という部分が、悪質サイトの仕組みを支える重要なカラクリとなっています。次の項目では、悪質サイトがどのようにユーザーを集め、どのようにして利益をあげているかを説明します。

●悪質サイトの「換金させない」仕組みとは
悪質サイトと安全なサイトの決定的な違いは、単純に言えば「ポイントが換金できるかどうか」です。もちろん仕組み上、悪質サイトであっても規定のポイントを集めれば交換はできることになっていますが、これはユーザーを集めるためのワナ。実際には「ほとんどの人が途中で諦めてしまう」と関係者はコメントします。
アフィリエイト広告関係者:「彼らにとって一番おいしいのは、登録したユーザーが換金寸前で諦めてくれることです。最初はサイトに登録するだけで5000ポイント付与されたりして、誰でも1万ポイントくらいまでは簡単にためられるようにできていますが、そこから地獄がはじまります。それまでは1件数百ポイントとかもらえていたのが、1~10ポイント程度にまで激減し、いくら広告を利用してもいっこうにポイントがたまらなくなります。ポイントには有効期限がありますから、早くためて交換しないと、せっかくためたポイントが無駄になってしまう。大半の人は途中で諦めますが、中には引くに引けなくなって有料サイトに登録してしまう人もいます」
編集部に寄せられた被害報告でも、「お金になると思って利用していたのに、結局換金できなかった」という報告が非常に多く見られました。また、ポイントサイト自体の利用は無料でも、「ポイントサイト経由で有料サイトに登録させられた」といった形で、間接的な金銭被害を受けるケースは少なくありません。加えて、悪質な有料サイトに登録してしまい、「最初の1カ月だけと思って登録したのに、どうやっても解約できず、2カ月目以降も利用料を支払うことになった」といった、別のトラブルに巻き込まれるケースも多いようです。
最終的に換金させなければ、それまでに何万ポイント配ろうと、サイト側にとってはタダと同じです。しかし、普段なら誰も押さないような広告でも「今なら登録するだけで2000ポイントもらえます!」と言われれば、ついクリックしてしまう人は大勢います。こうして「1万5000ポイント貯まれば換金できる」という幻想でユーザーを釣り、自分たちの広告へと誘導するのがポイントサイトの基本的な手口です。関係筋からの情報では、平常時で1日あたり50~100万円、有名ゲームがリリースされた時など、大きなキャンペーンがあった時には1日あたり1000万近くを稼ぎ出していたサイトもあったそうです。

●そもそも「2万円当たる!」は本当にもらえるのか?
また、今回話題になった偽キャンペーンや、後述する“2ちゃんねるまとめ風広告”のように、悪質サイトの多くは最初に「今なら2万円分(2万ポイント)プレゼント!」や「オーブ850個無料でゲット!」のような文言でユーザーを登録させようとしますが、この「2万円」も全額もらえることはまずありません。これらの偽キャンペーンに参加すると「まずは5000ポイントを確定プレゼント! 残りを受け取るにはこれから指定する5つのサイトに登録を」といった依頼が届きます(もちろん広告で、登録があればサイト側に成果報酬が入る仕組み)。しかし、依頼通り全てのサイトに登録しても、残りのポイントが本当にもらえるわけではありません。さらに追加で依頼が届く場合もあれば、実はページのどこかに小さく「抽選です」といった注意書きが書かれていて、全ての依頼をこなしても「応募が完了しました」というメッセージが表示されるだけであとは音沙汰なし――といったケースも。そもそも当選確率の表記もなく、抽選結果も公表していないため、本当に「当選者」がいるのかどうかは不明です。では、実際に換金できているユーザーや、「2万円当たった」というユーザーはいないのでしょうか。関係者に聞くと「いるにはいるのではないか」との回答でした。
アフィリエイト広告関係者:「誰も換金できなかったり、誰も当選者がいなかったりしたらそれはもう違法です。彼らもそこを分かっているから、ものすごく頑張れば一応換金できるようにはできている。そこが彼らの巧妙なところで、だからこそこれまで規制や摘発の対象になってこなかったんです。恐らく『2万円プレゼント!』のようなキャンペーンも、ものすごく少数ですが当たっている人はいると思います」
●“2ちゃんねるまとめ風広告”は誰が作っているのか
これら悪質ポイントサイトの主な入り口となっていたのが、まとめサイトなどに掲載される、いわゆる“2ちゃんねるまとめ風広告”です。まとめサイトなどを見ていて、「ガチャ無料引き放題の裏技見つけたwww」や「オーブ850個無料でゲットしたったwwww」といった記事を見たことがある人は多いはずです。こうした“まとめ風広告”は誰が作成し、どのような流れで掲載していたのか。今回の偽キャンペーン騒動ではポイントサイト側だけが謝罪や対応を迫られていますが、関係者は「広告代理店やまとめサイトも共犯」と指摘します。関係者によると、これらの広告は主にポイントサイト側か広告代理店側が作成していたとのこと。広告ページができたら、さらに代理店が各まとめサイトに「広告を掲載しませんか」と営業をかけ、まとめサイト側は記事から登録があれば件数に応じた成功報酬を受け取る――という流れです。報酬は登録1件あたり約500円で、代理店の取り分は100円、まとめサイト側が400円。ターゲットはやはりゲームが多く、「人気のゲームはほぼ全て網羅していました。そのゲームのまとめサイトがあれば、それに合わせてページを作って提案する、といった感じです」と関係者。また、仲の良いまとめサイト運営者に「これからどんなサイトを作るか」をヒアリングし、それに合わせて事前にページを作ったり、逆にまとめサイト側から「今度こんなサイトを作るからコード(アフィリエイトコード)を発行してほしい」と提案されたりすることもあったそうです。 悪質ポイントサイトの広告は報酬額も大きく、登録者も多いため、まとめサイトにとっては重要な資金源の1つとなっていました。実際にまとめ風広告に関わっていたという情報提供者の1人に、どんなことを考えて作っていたか、こだわった点などはあったかを聞くと、次のように答えました。
広告代理店関係者:「こだわっても大差ないですよ。だまされる人はだまされるし、気付く人は気付きます。正直こんなことに労力を注ぎたくはありませんでした。考えていたことは『人として終わってんな~』くらいですね」
ちなみに、こうした“まとめ風広告”ではゲームのロゴやイラストなどが無断で使用されていましたが、これまでゲーム会社側から注意を受けたことは一度もなかったとのこと。
アフィリエイト広告関係者:「ゲーム会社からすればタダで宣伝してくれているわけですから、ゲーム会社も分かっていて黙認していたんだと思います」
また広告であることも明記しておらず、ステルスマーケティングにあたるのではないかという指摘もあります。

●依頼を出していた「出稿企業」の責任は
一方、悪質ポイントサイトに“依頼”を出していた企業側の責任を問う声もあります。前述の通り、編集部に寄せられた被害報告の中には「悪質ポイントサイト経由で有料サイトに登録させられた」といった声も多く、中にはTSUTAYA DISCAS(ツタヤ)やdwango.jp/ニコニコ動画(ドワンゴ)、コミックシーモア(NTTソルマーレ)といった有名企業やサイトの名前も挙がっていました。では、これらの企業は、掲載先が悪質ポイントサイトであることを分かっていて依頼を出していたのか。あるポイントサイト関係者は「企業側は、自分たちの広告がどこに出ているかまでは把握していないと思います」と語ります。これはインターネット広告全般に言えることですが、こうした広告を実際に掲載しているのは広告代理店です。代理店は広告主から依頼を受けると、自分たちのネットワークを使い、さまざまなサイトに一斉に広告を掲載します。しかし、このとき広告主に対して「どのサイトに広告を掲載したか」を逐一報告したりはしません。このため広告主は、自分たちの広告が悪質ポイントサイトの客集めに使われていたとしても、気付かないことが大半だと言います。実際、読者からの報告で名前があがった3社(ツタヤ、ドワンゴ、NTTソルマーレ)に問い合わせてみましたが、ドワンゴ、NTTソルマーレは「出稿されていたことを知らなかった」と回答。ツタヤは「出稿先のメディアについては把握していました」としつつも、それが悪質サイトだったことについては知らなかったとのことでした。またいずれも事態を把握した時点で全て出稿を取りやめており、今後も出稿する予定はないと回答しています。

●今後改善はあるのか
「manekin」を運営していたメディアラスタライズは、騒動後の2月23日、新たに「運営ガイドライン」を公表し、若干ではありますが、改善に向けた取り組みを見せています。しかし関係者は「本当に改善するつもりがあるかどうかは怪しい」とあくまでも厳しい見方を示します。
ポイントサイト関係者:「ガイドラインは誇大広告や商標の取り扱いといった部分にしか言及しておらず、肝心の換金まわりについては一切触れていません」
また、サービス再開に伴って、“まとめ風広告”の出稿も再び増えてきています。再開後は単純な“2ちゃんねるまとめ風”だけでなく、キュレーションサイト風やNAVERまとめ風など新たなバリエーションも。騒動の余波を警戒してか、代理店側も広告だと見破られないような工夫をこらしているようです。過激な広告でユーザーを呼び込み、ある程度稼げたら(広告をクリックさせたら)換金される前に離脱させる――。悪質ポイントサイトの手口は、言ってみれば焼畑農業です。しかし、ある関係者は「このやり方はまだ当分続くでしょう」と指摘します。
ポイントサイト関係者:「法律で規制するか、被害者に対応するための社会的な仕組みとか、そういったものがなければ今の状況は変わらないと思います。あとは広告主やゲーム会社側がこれを黙認せず、何か行動を起こすか。スマートフォンのユーザー自体がまだ増加傾向にあるため、それと比例して新規ユーザーもやはり増えています。スマホユーザーが増えていくかぎり、彼らのビジネスが終わることはないと思います」
ねとらぼ 3/26(日) 19:10配信