2018年12月4日火曜日

<福岡>暴力団、休眠NPO標的 肩書取得が目的か

休眠状態の特定非営利活動法人(NPO法人)が放置されている問題で、福岡県の休眠法人が乗っ取られるまでの経緯が毎日新聞の取材で判明した。運営に困った創立者が知人に相談し印鑑や書類を預けると、組幹部と密接な関係のある暴力団親交者が代表者に就任した。さらに多数の暴力団関係者も送り込まれ、当初4人だった理事は50人に。情報公開請求で入手した県警の文書によると、一連の工作は組幹部の指示に基づくものだった。【向畑泰司、田中龍士】創立者である40代の男性によると、問題の法人は2002年、福岡県内に設立。人権擁護運動をするはずだったが、「面倒くさくなって」放置し、休眠状態になった。「自然消滅しそう。どうしようか」。09年ごろ創立者が知人(男性)に相談したところ「環境問題をやろう」と誘われた。創立者は同意し、印鑑や関係書類を渡した。「人権」から「環境」に活動内容を変えるには、県(当時の所管官庁)に書類を提出する必要がある--と知人に言われ、信じたからだ。ところが狙いは違った。まず09年9月、代表理事が創立者から、知人の連れてきた親交者に取って代わられた。親交者は指定暴力団幹部と密接な関係を持つ人物だった。そして4人しかいなかった理事は同年10月、44人に急増。10年6月には50人に達した。捜査関係者は「これらの大半は暴力団関係企業(フロント企業)の役員など、いわゆる暴力団関係者」と話す。この間、法人の住所地は福岡県中部の自治体から親交者の関係先である福岡市内に移され、法人名も変わった。創立者は途中で気付き「関係ない人を理事に入れるな」と抗議したが、無視された。暴力団側の動機や乗っ取り後に何をしたのか詳細は不明だ。ただ、乗っ取り後の09年11月以降、約4カ月の間に計約30万円を福祉施設向けに寄付し、親交者は福岡市職員から感謝状を受け取った。創立者は「NPOの名前で安心させて、別の仕事をしようとしたのだろう」と推測。捜査関係者も「肩書で相手を信用させるのが手口」と指摘し、暴力団員らが看板の悪用を図ったとみる。結局、親交者を含む理事数人は11年、特定の業者に工事を発注するよう建設会社に迫った強要未遂容疑で福岡県警に逮捕された。県警はその後、法人と暴力団の関係を県に文書で通知。法人は解散した。親交者は取材に「NPOを隠れみのに使ったことはない。解散しており何も話したくない」と語った。NPO法人を巡っては、山口県の法人の理事長が暴力団組長と共謀して100万円を脅し取ったとして恐喝容疑で逮捕されたり(04年)、東京都内の法人理事が元暴力団組長と共に約430万円を詐取した疑いで逮捕されたり(12年)するなど刑事事件も相次いでいる。
◇福岡県警、実態を指摘
毎日新聞が情報公開請求で入手した福岡県警作成の文書は、問題のNPO法人を「暴力団の統制下にある」と結論づけている。NPO法は「暴力団やその構成員らの統制下にある団体」と疑われる場合、警察が自治体に「意見を述べることができる」と定める。通知文はこれに基づくものでA4判1枚。県警本部長から知事あてに提出された。(1)暴力団員との共犯被疑者(容疑者)として代表理事や多数の理事が逮捕、起訴されている(2)多くの理事が暴力団関係企業の理事等を兼任している(3)役員人事はすべて暴力団幹部の指示のもとに行われている--などと指摘。「適当な措置をとる必要がある」としている。県によると、通知を受けて認証取り消しに向けた手続きを進めたが、通知後間もなく法人が自主的に解散したという。【向畑泰司】
最終更新:2018/12/2(日) 10:20 毎日新聞