2023年6月19日月曜日

突然届いた「借金1,200万円」の返済通知に絶望…父の葬儀後“流れで”遺産相続の話に参加した35歳・会社員の悲劇【司法書士の助言】

 離れた場所に住む子どもが、親が亡くなったタイミングで帰省し、そのまま流れで遺産分割協議を行うというケースは、非常に多くみられます。しかし、遺産分割協議を行ったあとに被相続人の借金が発覚した場合、思わぬトラブルに発展すると、司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏はいいます。こういった事態を防ぐには、どうすればいいのでしょうか。本記事で詳しくみていきましょう。

〇3ヵ月で決断が必要…「相続放棄」検討時のポイントは?

相続放棄とは、相続人が亡くなった方の権利義務の承継を拒否する意思表示のことを指します。プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い場合は、相続放棄をしたほうがいいといえます。相続放棄をする場合、相続が開始したことを知ってから3ヵ月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。これが受理されることによって、相続放棄が認められることになります。

相続放棄をしたあとは、最初から相続人ではなかったものとみなされるため、遺産分割協議等には当然参加しません。相続放棄手続きは選択期間が3ヵ月ととても短いため、注意点も多く存在します。具体例をもとにみていきましょう。

・遺産分割協議参加後は、原則「相続放棄不可能」

・帰省の流れで遺産分割協議に参加後、父の「1,200万円」の借金が発覚

都内の中堅IT企業で働くXさん(35歳)。3歳年下の妻と2歳になる子どもが1人います。地元は九州で、63歳の父親は飲食店を経営していました。その父親が亡くなったという報せを受けたため、Xさんは一時的に帰省。葬儀のあと相続の話になったため、そのまま遺産分割協議に参加しました。財産を相続することで話をまとめたものの、後日父が営んでいた事業の借金1,200万円の返済を求める書面が届いてしまいました。このように、「もし被相続人に個人的な借金があると知っていれば相続しなかった」という事例の場合、どうしたらいいのでしょうか。こういったケースは、筆者が司法書士として実務をやっているなかでもよくある話です。「相続をしたものの借金のことなど知らなかった」「知っていれば絶対に相続放棄していた」といったご相談をよくいただきます。遺産分割協議というのは、自分が法律上の相続人であること認めたうえで行うものになるため、原則遺産分割協議に参加したあとは相続放棄することができません。

〇遺産分割協議後、相続放棄が受理された事例もあるものの…

例外として、今回の事例のように、「相続人が被相続人に借金がないと信じて遺産分割協議をした」「もし多額の借金の存在を知っていたら相続放棄していたであろう」と考えられ、かつ細かな条件に合致していれば、相続人が借金の存在を知ってから3ヵ月以内に相続放棄の申述をした場合は受理すべきであると判事した裁判例も存在します。ただし、この「細かな条件」というのは相当ハードルが高く、類似ケースでも却下となっているケースもたくさんあります。したがって、原則としては先述のとおり、遺産分割協議に参加してしまったらそのあと相続放棄はできないと考えていただきたいです。父親が亡くなったと知り帰省し、その流れで遺産の話し合いに参加するケースはよくありますが、ぜひ相続放棄にはこういった注意点があるということを知っておいていただければと思います。

〇相続放棄ができない事態を防ぐ「3つのポイント」

「相続放棄ができない!」という事態に陥らないためには、以下の3つのポイントに気をつける必要があります。

1.故人の財産に手をつけない

まず、遺産の全容がわからないうちは、亡くなられた方の財産に手をつけるようなことは絶対にやめましょう。

2.遺産分割協議に参加しない

また、遺産分割協議に参加することも控えていただく必要があります。

3.負債調査を行う

さらに、負債の調査をしっかりと行っておきましょう。郵便物や保管物、通帳の確認を行い、信用情報機関に問い合わせる必要もあります。信用情報機関というのは大きく分けて「JICC(日本信用情報機構)」「CIC(割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)」「KSC(全国銀行個人信用情報センター)」の3つがありますが、この3つとも照会し、問い合わせておくことが重要です。金融機関からの借入やクレジットカードのローン等に関しては、信用情報機関に必ず記載があるため問い合わせればわかりますが、個人間の借金はなかなかわかりづらいです。借用証書などの書類がないと、借金が判明しないまま相続してしまう場合もあるため、十分に注意が必要です。また、信用情報機関に問い合わせをするにしろ、これは郵送で行うためかなりの時間(3週間~4週間)を要します。3ヵ月の熟慮期間内に相続放棄をしなければならないなか、調査に時間を要して相続をするか・相続放棄するか決定できない場合には、家庭裁判所に申し立てることで熟慮期間を延長することが可能です。相続放棄を検討するのであれば、同時進行で一気に手続きを進めていかないと間に合わないため、財産調査は個人で行うよりは専門家に依頼するほうがスムーズです。

◆まとめ

相続放棄手続きを失敗しないためにも、自らが相続人となる可能性がある人の情報については、生前のうちにある程度は把握しておいたほうがいいでしょう。

相続が発生した場合、

1.まずは財産調査をしっかりを行う

 2.相続放棄を希望する場合は、熟慮期間がわずか3ヵ月であるため早めの手続きを行う

というのがポイントです。相続財産の調査に関しては、相続の専門家である弁護士や司法書士に早期に依頼し、のちのトラブルを防ぐことにつながります。


加陽麻里布

司法書士法人永田町事務所

代表司法書士


幻冬舎ゴールドオンライン / 2023年6月18日 11時15分