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2025年5月17日土曜日

相続を「放棄」したいのですがお金がかかるって本当ですか? どのくらいの金額がかかるのでしょうか?

 被相続人の財産(資産および負債)の全てについて、承継しないことを家庭裁判所に申述することで相続を放棄することができます。放棄が受理されると、申述した人は当初から相続人でなかったものと見なされます。 例えば、被相続人の資産がプラスの資産よりマイナスの負債が多いような場合に、負債の承継を回避するためなどに使われます。 本記事では、相続放棄の手続きの方法や費用などについて確認していきます。

〇相続放棄の手続きの流れ

相続放棄は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内と期限が定められており、これを「熟慮期間」といいます。ただし、財産を調べるのに時間を要する場合などには、相続放棄の期間伸長の手続きをすることもできます。3ヶ月という期間は、思った以上に短く、相続開始から葬儀、法要などに忙しく対応していると、いつの間にか期限を迎えてしまったなどの事例をよく聞くことがあります。また、その間に被相続人の財産(プラス、マイナス)を全て把握することが困難な場合もあるでしょう。ご自身で相続放棄の手続きを進めることが難しい場合や、判断に苦慮する場合などには、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に早めに相談することをお勧めします。ただし、その場合には通常依頼のための報酬(費用)がかかります。

ご自身で手続きを進める場合の相続放棄の手続きの流れは、以下のとおりです。

(1)相続放棄申述書をはじめとする必要書類の準備

(2)家庭裁判所への申述(相続の開始を知った日から3ヶ月以内)

(3)家庭裁判所から届く照会書の返送

(4)相続放棄申述受理書の受領

〇相続放棄にかかる費用

相続放棄は、個々の相続人が単独で申述することができます。また、被相続人の資産をプラスの範囲内でマイナス分も承継する「限定承認」は、相続人全員で家庭裁判所に申し出る必要があります。ご自身で相続放棄の手続きを進める場合、一般的には以下のとおり3000円程度の費用がかかります。

(1)収入印紙代:800円(申述人ひとりにつき)

(2)郵便切手代:約400~500円(管轄の裁判所によって異なる)

(3)被相続人死亡の記載がある戸籍謄本:750円

(4)被相続人の住民票除票(または戸籍の附票):300円

(5)申述人の戸籍謄本:450円

(4)(5)については法務局で取得できる「法定相続人一覧」で代用できます。上記の手続きを弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合には、一般的には別途費用がかかります。正確な費用は個々の専門家に確認する必要がありますが、申述人ひとり当たり数万円程度の費用がかかるようです。

〇相続放棄に関するよくあるトラブル

相続人の範囲について、被相続人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

●第1順位

被相続人の子

●第2順位

被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)

●第3順位

被相続人の兄弟姉妹

前述のとおり、相続放棄をした場合、その人は初めから相続人とならなかったものと見なされます。その場合に、次順位の相続人がいると、相続権がその人に移ることになります。相続放棄をした人が、「私は初めから相続人ではないのでこの相続は全く関係ない」として、次順位の相続人に伝えていない場合などに思わぬトラブルとなるケースもあります。次順位の人が全く想定していなかった状態で、突然相続人となることに困惑する恐れや、ましてや多額の負債を思いもよらぬタイミングで負うこととなるケースなどもあり得ます。また、2023年4月施行の民法第九百四十条では、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」として、たとえ相続放棄しても全く関係ないとはいえず、一定の管理義務(第三者に迷惑をかけた場合などに責任を問われる恐れがある)が生じる場合があることを明確としています。それと相続放棄しても保証債務(連帯保証人のこと)は免除されません。

〇まとめ

相続放棄の手続きは、申述人が単独で実施することができます。ただし、いったん相続放棄を選択した場合には取り消すことができません。相続や法律などの専門的な知識のないままに手続きを進めてしまうことで、必要書類の不備や却下となってしまうケースもあり得ます。結果として、手続きが遅延してしまうこともあるでしょう。相続放棄を選択することに迷いがある場合や資産の調査などに時間を要する場合などには、早めに専門家のアドバイス、支援を受けることをお勧めいたします。


2024年11月27日水曜日

無効になるリスクも…相続放棄前後に“やってはいけないこと”とは?避けるべき行為をしてしまった場合の「3つの対処法」

 「相続放棄」は、故人の財産や負債の引継ぎを辞退する大切な選択肢です。相続を通じて借金等を背負うリスクを避けたいと考える方にとって、この手続きは有力な手段となります。ただし、相続放棄を行うには家庭裁判所での手続きが必要であり、期間や注意点も多く存在します。本記事では、相続放棄の手続きから注意点、避けるべき行為まで詳しく解説します。

〇相続放棄とは何か

相続放棄とは、相続人が故人の財産や負債を一切引き継がないことを選ぶ手続きです。特に、借金が多い場合に検討されます。手続きは、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に、故人の最後の住所を管轄する家庭裁判所で行います。必要な書類(故人の住民票除票等)を提出し、裁判所に受理されることで手続きが完了します。

〇相続放棄前後に“避けるべき行為”

相続放棄を行う前後には、いくつか注意が必要な行為があります。これらを行うと、相続放棄が認められなくなったり、無効となったりすることがあります。

・相続財産の処分

相続放棄を考えている場合、相続財産を処分してはいけません。例えば、実家を解体したり売却したりすると、相続を承認したと見なされ、相続放棄ができなくなります。保存行為(現状維持のための措置)は認められますが、処分行為には慎重を期すべきです。

・預貯金の引き出しや解約

故人の預金に手をつけると、相続放棄ができなくなるリスクがあります。誤って引き出してしまった場合でも、使わなければ処分行為と見なされないこともありますが、元の口座に戻すのが理想です。口座が凍結されている場合は、引き出した現金を他の資金と分けて管理するようにします。

・車や家具などの遺品整理

車や家具は相続財産に含まれるため、売却や廃棄をすると相続を承認したと見なされることがあります。車を処分しなければならない場合は、専門家に相談し、見積もりを取って書類を残すことが大切です。家具についても同様で、安易に処分せず、弁護士に確認し、証拠書類を残すことをおすすめします。

・賃貸契約の解約

故人が賃貸物件に住んでいた場合、相続放棄を検討しているなら、賃貸契約の解約には注意が必要です。契約を解約すると、賃貸物件を借りる権利(賃借権)も財産の一部と見なされ、それを処分したとされて相続放棄が認められなくなる恐れがあります。解約を進める場合は、貸主や管理会社と相談し、後で証拠となる書類をきちんと残しておくことが大切です。

・クレジットカードや携帯電話の解約

故人のクレジットカードや携帯電話の解約も慎重に行うべきです。これらを解約することで、相続財産を処分したと見なされる可能性があります。相続放棄の手続きが完了するまでは、契約に手をつけない方が無難です。

・相続財産の隠匿・消費

相続放棄を行った後でも、故人の財産を隠したり使ったりすると、相続を承認したと見なされ、相続放棄が無効となる恐れがあります(民法921条3号)。相続放棄後は、財産に手をつけないよう注意が必要です。

・財産を隠す、目録に記載しない

相続放棄後に故人の財産を隠す、遺産目録に記載しないなどの行為は、背信行為とみなされます。このような行為が発覚すると、相続放棄の効力が否定され、相続を承認したことになるリスクがあります。隠匿や未記載は法的なペナルティを伴うため慎重に対応することが求められます。

・被相続人の債務支払い

相続放棄を検討している場合、故人の借金を相続財産から支払うのは避けるべきです。借金の支払いが「処分行為」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。支払いが避けられない場合は、自分の資産を使って支払いを行うと良いでしょう。これにより、相続放棄手続きに影響を与えることなく債務を返済できます。

〇遺産分割協議への参加

遺産分割協議に参加すると、相続を承認したと見なされるリスクがあります。協議は基本的に相続を前提に行われるため、相続放棄を考えている場合には参加しない方が無難です。ただし、相続人全員での協議が行われなければ、法的に有効な協議とはなりません。相続放棄を確実に行うには、家庭裁判所での手続きが必要です。

〇3ヵ月の熟慮期間を放置すること

相続手続きでは、相続開始を知ってから3ヵ月以内に単純承認、限定承認、または相続放棄を選択しなければなりません。何も手続きを行わないと、原則として単純承認が適用されます。熟慮期間を過ぎた場合でも、弁護士に相談すれば救済措置があることもあります。遅れた場合は、早めに専門家に相談することが重要です。

〇相続放棄後にも必要な「財産管理」

相続放棄をしても、すぐにすべての財産管理から解放されるわけではありません。相続放棄後でも、占有している財産については「保存義務」が生じます。これは、相続財産の価値を保護するために必要な義務です。例えば、空き家や土地、車などを占有している場合、その財産を管理し、適切に保存する義務が続きます。2023年の民法改正により、相続放棄後に占有している相続財産については、保存義務が引き続き適用されることが明確になりました。この保存義務は、相続財産清算人が正式に選任されるまで続きます。すべての相続人が相続放棄をした場合や、誰も財産を占有していない場合には、家庭裁判所により相続財産清算人が選任され、財産の管理が移行します。

〇保存義務の重要性

保存義務を怠ると、損害賠償請求やトラブル、ペナルティを受けるリスクがあります。特に不動産や車などは劣化や事故のリスクがあるため、注意が必要です。相続財産の保存義務は、相続放棄後でも他の相続人が正式に財産を引き継ぐまでは続くため、放置しないようにしましょう。

〇相続放棄後でも“例外的に許される”財産処分

相続放棄後でも、以下のような場合は財産の処分が認められています。

・保存行為

「保存行為」とは、相続財産の価値を維持するために必要な措置を指し、民法921条1号により財産の処分には該当しません。例えば、台風で家屋が被害を受けた際の応急修理、借金返済期限の督促、有価証券や貴金属の保管、公共料金や税金の支払いなどが保存行為に該当します。相続放棄後も財産の保存義務があれば、これらの行為を行う必要があります。保存行為と財産処分を誤ると、法定単純承認が成立する恐れがあるため、判断に迷う場合は専門家に相談することをお勧めします。

・短期賃貸借

相続財産に関して、一定期間を超えない賃貸借契約は財産処分に該当しません。具体的には、山林の賃貸借は10年、その他の土地は5年、建物は3年、動産は6ヵ月以内であれば問題ありません。しかし、相続放棄後はこれらの賃貸借契約を結ぶ必要は基本的にありません。リスクを避けるため、相続財産には手をつけないことが推奨されます。

・葬儀費用などの社会通念上相当な支出

葬儀費用は故人を見送るために必要な支出であり、一般的な範囲内であれば相続財産の処分には該当しません。ただし、その範囲は故人の社会的な立場によって異なるため、支出の妥当性には注意が必要です。場合によっては、債権者が葬儀費用の過剰支出を問題視することもあります。相続放棄を考えている場合、葬儀費用は自分の資金で賄うのが無難です。

・経済的価値のない遺品の形見分け

経済的に無価値な遺品については、形見分けをしても相続財産の処分とは見なされません。しかし、自動車や高価な時計など価値がある遺品については、形見分けを行うと財産の「処分」と見なされ、相続を承認したと判断されるリスクがあります。したがって、価値のある遺品については慎重に扱う必要があります。

〇相続放棄後にやってはいけないことをしてしまった場合の対処法

相続放棄後に誤って財産の処分を行い、法定単純承認が成立した場合、相続放棄が無効になる可能性があります。その場合でも、取るべき対策があります。

対処法1:遺産分割協議での対応

相続放棄後に相続財産に関わる行為をしてしまった場合、まず遺産分割協議を検討します。遺産分割協議書を作成し、他の相続人と「財産を相続しない」合意を得ることで、実質的には相続を避けることが可能です。しかし、故人に多額の債務がある場合、他の相続人の同意を得るのは難しく、慎重な交渉が必要です。専門家のサポートを受けながら進めることをお勧めします。

対処法2:債務整理の検討

誤って借金を相続してしまった場合、債務整理を検討することが有効です。代表的な方法として、任意整理、個人再生、自己破産、特定調停があります。これらを利用することで、借金の返済負担を軽減できますが、信用情報に影響を与えるデメリットもあるため、慎重に選択しましょう。専門家の相談を受け、最適な方法を選ぶことが重要です。

対処法3:専門家への早期相談

相続放棄を検討している場合、誤った行動によって法定単純承認が成立するリスクがあります。法定単純承認が成立すると、その後に相続放棄はできません。しかし、相続問題に詳しい弁護士に早めに相談すれば、決定を覆す可能性があります。

実際に、3ヵ月を超えた後に相続放棄が認められた事例もあります。専門家の知識を活用し、適切な対応を取ることが重要です。

〇相続放棄後に受け取れるもの・受け取れないもの

相続放棄を行った場合、受け取れるものと受け取れないものがあります。

・受け取れるもの

死亡保険金(受取人が指定されている場合):受取人に指定されていれば、死亡保険金は相続財産とは見なされず、受け取ることができます。

未支給年金:故人が死亡時まで受け取っていなかった年金は相続財産に含まれず、相続放棄をしても受け取れます。未支給年金は、配偶者や子など、一定の条件を満たす家族が受け取ることができます。

祭祀財産(仏壇やお墓など):相続放棄をしても、祭祀財産は引き継ぐことができます。

・受け取れないもの

相続財産(不動産、預貯金、株式など):相続放棄をした場合、これらの財産を受け取ることはできません。

医療費や未払い給与などの還付金:これらは相続財産に含まれるため、相続放棄後には受け取ることができません。

相続放棄を考えている場合、これらの財産に手をつけないよう注意が必要です。特に、故人が生前に受け取るべきだったお金に関与すると、相続放棄が無効になり、相続を承認したとみなされることがあります。

・相続放棄後でも「免除されない義務」

相続放棄をすると、法的には相続人としての立場を失いますが、全ての責任や義務が免除されるわけではありません。以下の義務は、相続放棄後も残る場合があります。

・相続財産の管理と引継ぎ

相続放棄をすると、相続財産を受け取る権利はなくなりますが、相続財産を保持している場合、その管理義務が生じます。例えば、故人の通帳や重要書類を保管している場合、他の相続人や相続財産管理人に引き渡すまで、その財産を適切に管理する責任があります。積極的な行動は求められませんが、安全に保管し、引き渡しを行うことが求められます。

・連帯債務や連帯保証債務

相続放棄をしても、連帯債務や連帯保証に関する義務は免除されません。被相続人と一緒に連帯債務者や連帯保証人になっていた場合、相続を放棄しても自分が負っている債務の責任は残ります。したがって、相続放棄をしても連帯債務や保証から解放されるわけではありません。

・相続放棄に関する専門家への相談

相続放棄を進める際、法律的な知識が必要です。誤って法定単純承認に該当する行為をしたり、手続きを期限内に進めなかったりすると、相続放棄が無効になることもあります。そのため、相続放棄を確実に進めるためには、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

・手続きのスムーズ化

相続放棄の手続きでは、戸籍謄本など多くの書類が必要ですが、専門家に依頼すれば、煩雑な手続きや書類収集を任せることができます。また、相続放棄申述書の作成もミスなく進められます。

・単純承認や期限超過の防止

相続放棄の手続きには、相続開始を知った日から3ヵ月以内に申立てを行う必要があります。期限を過ぎると、相続放棄が認められなくなるため、専門家に依頼することで、期限内に確実に手続きを進めることができます。

・債権者対応のサポート

相続放棄の手続き中に、債権者から故人の借金の返済を求められることがあります。弁護士や司法書士に相談すれば、債権者とのやり取りもサポートしてもらえ、手続きを安心して進めることができます。相続放棄を確実に進めるためには、専門家によるサポートが重要です。必要な手続きを確実に行い、リスクを避けるためにも、早めに相談することをお勧めします。


2024年11月2日土曜日

「相続税の滞納」なぜ増加?5つの原因と「本当に必要な対策」とは?【専門家が解説】

 国税庁が発表した「令和5年度租税滞納状況の概要」によると、相続税の新規滞納発生額は前年度より増加しており、多くの人が納税に悩まされていることが推測される。相続税を支払うべき方々には、被相続人が残した財産があるはずだ。にもかかわらず、なぜ相続税の滞納は発生するのだろうか。本記事では、来たるべき日に備えた本当に必要な相続税対策や、相続税の滞納によるペナルティなどについて、詳しく解説する。(税理士・岡野相続税理士法人代表社員岡野雄志)

〇相続税の滞納が増えている!2023年度の滞納状況とは

国税庁が発表している「令和5年度租税滞納状況の概要」には、租税の滞納状況や未然防止策、整理促進に向けた取組が掲載されている。まず、相続税に限らず租税全般の滞納状況を見てみると、2023年度(令和5年度)の新規発生滞納額は7997億円で、1992年のピーク時の4割程度に留まっている。しかし、前年の22年度よりも802億円増加している(国税庁が指す滞納とは、納付期限までに納付されず督促状が発送されたものを指す)。今回注目する相続税を見てみると、新規発生滞納額は464億円となっている。前年の22年度は367億円だったことから、こちらも97億円増加しており、前年度より滞納が増えている。21年度は325億円、20年度は236億円と公表されており、増加の一途をたどっている。

本資料には新規に発生した滞納以外に、滞納残高も公表されている。相続税の滞納残高(前年度末時点の滞納および新規発生滞納額の合算)は、23年度は560億円、22年度は527億円とされており、未整理対応が継続している相続税も増加している。なぜ相続税の滞納は発生するのか?

〇主な5つの原因とは

相続税が発生する相続人には、被相続人から引き継げる財産があるにもかかわらず、新規発生滞納額も滞納残高も増加している。なぜ相続税の滞納は発生するのだろうか。主な原因として、以下の5つがある。

1つ目は「現金の不足による納税難」。相続税は原則「現金」で納付する必要があるが、用意できなければ滞納になってしまう。納税のために金融機関から融資を受ける方法も考えられるが、融資を受けるまでには時間を要するため、納税が遅れる可能性もある。

2つ目は「相続財産の中で不動産の割合が高い」。相続財産に有価証券など換価しやすい財産が少なく、換価しにくい不動産が多い場合、高額の相続税が発生しているにもかかわらず、手元に納税資金を用意しにくい。

3つ目は「相続手続きの知識不足」。相続税の納付期限は「被相続人が死亡したことを知った日から10カ月以内」である。しかし、大切な家族が亡くなった後は葬儀や遺品整理などの手続きに追われ、時間があっという間に経過してしまう。知識不足から相続税申告の準備が遅れるケースも少なくない。

4つ目は「相続人間の対立」。遺産分割協議が難航すると、相続税の申告が遅れやすくなる。高額の相続財産がある場合や、被相続人を介護していた相続人とその他の相続人との間で不公平感が生じるケースでは、遺産分割協議がもめやすい。

5つ目は「申告を認識していない」。価値のある相続財産が少ないと思い込んでいたり、名義預金が相続税の対象となることを知らなかったりすると、自身が相続税申告の対象者であることを失念しがちだ。近年はネット銀行やネット証券の財産を見落とすケースもある。また、相続発生から過去7年以内の生前贈与も相続税の対象となるため、注意が必要だ。

〇知らないと怖い!相続税を滞納するとどうなるか

相続税が払えない場合には、一体どのようなペナルティが待ち受けているのだろうか。申告期限である10カ月以内に申告書が提出できないと、無申告加算税が加算されてしまう。無申告加算税は、最大、相続税額300万円を超える部分に対して30%課税される。また、納付期限を超えると「延滞税」も加算される。さらに隠ぺいで申告が遅れたとみなされると、重加算税までプラスされる。重加算税は非常に重いペナルティであり、納付する相続税に対して40%も課税される。相続税申告・納付の遅れや隠匿は、何のメリットももたらさないことがわかるだろう。

〇複数の相続人のうちの誰かが相続税を納付しないとどうなる?

複数の相続人がいる場合、自身が取得した財産に応じた相続税を納めることが一般的だ。基本的に誰か1人が代表して納付するものではない。では、別の相続人が相続税を納付しなかった場合には、どのようなリスクがあるのだろうか。結論から言うと、他の相続人の滞納に関しても、自分が支払うよう税務署から請求される可能性がある。なぜなら、相続税には「連帯納付義務」があり、相続人全員が連携して相続税を支払う必要があるからだ。遺言書で財産をもらう場合も同様であり、相続人が複数いる場合には注意が必要だ。なお、本来支払うべき相続人が税務署から納税猶予や物納を認められた場合は請求されない。「相続財産を使い切ってしまった」「元々仲が悪く連絡しあう関係ではない」といった事情があっても、税務署は考慮してくれない。遺産分割協議や遺言書による財産の分配時に、いつ相続税を納付するのか確認しあっておくことも検討しよう。

納付が遅れそうな相続人がいる場合、代表者が支払うことも可能だが、贈与とみなされる可能性もある。相続税は注意したいポイントが多いため、必ず税理士に相談した上で手続きを進めてほしい。

〇相続税の支払いには現金が必要!来たるべき日に備える方法とは

相続税を納めるためには「現金」と「正しい相続税知識」が必要だ。物納も選択肢として考えられるが、現金での納付が困難であり国が定めた基準に該当していないと、物納申請は却下されてしまう。相続前から物納を目指すことは得策ではないため、来たるべき日に備えて相続税納付の準備を行うことが大切だ。また、納付期限や控除、特例など知っておくべき知識も多いため、相続税の基礎知識を学んでおくことも重要だ。相続について相談する多くの人は、相続開始後に税理士に相談する。相続税申告・納付に直面してから初めて税理士の必要性を感じるのだ。しかし、資産税に強い税理士の多くは生前からの相続税試算を推奨している。将来支払う可能性がある相続税額を把握すると、今やるべき対策がわかるからだ。特に不動産が多い方は、自身の所有する不動産がどのぐらいの評価になるのか、まずは税理士へ相談してほしい。相続税を節税し、将来の負担を少しずつでも減らしていくことも大切だ。オーソドックスな対策方法だが、贈与は効果的である。年間110万円の暦年贈与や相続時精算課税制度、贈与税の配偶者控除の特例など、家族の財産状況や構成にあわせて贈与を進めよう。相続時のトラブルによって相続税申告が遅れないように、遺言書を作成することもおすすめする。遺言書があれば遺産分割協議を行わなくて済むからだ。誰にどの財産を残すか、ご自身の意志を込めることも可能になる。相続時に現金が不足することが予想される場合、生命保険を活用する方法も検討しよう。生命保険には法定相続人1人につき500万円の非課税枠が用意されている。死亡時に保険金を受け取れるため、相続税納付に活用できることも生命保険のメリットと言えるだろう。不動産が多い場合には、贈与の上で収益物件化を目指したり、不要な土地・建物を売却しておくことも大切だ。収益を貯蓄し相続税に充てたり、不動産売却で現金化しておけば納税に備えることもできる。生前の段階から不動産の有効活用を検討しよう。

〇遺産分割協議が終わらない場合は未分割状態で申告できる

遺産分割協議がまとまらない場合であっても、相続税申告は待ったなしだ。調停や係争中であっても、税務署はトラブルを理由に相続税申告を待ってはくれない。このようなケースでは遺産分割の内容が決まっていないため、法定相続分で相続財産を按分して、申告・納付を行うことできる。トラブルの渦中であっても、税理士・弁護士と連携しながら、期限内の申告を進めてほしい。遺産分割が正式に決定したら、4カ月以内に更正の請求をすればよい。本記事では、相続税の滞納について、国税庁の最新資料を参考に滞納の発生理由や対策方法について詳しく解説した。相続税の納付には現金が必要であり、生前から準備を進めておくことが望ましい。納付のために、大切な不動産や株式を売却することを避けたい人もいるだろう。まずは生前から相続税の試算を行い、どのように納税資金を用意するのか家族で計画を立てよう。



ダイヤモンド・オンライン


2024年6月19日水曜日

相続放棄したのに請求がきた!債権者による取り立てへの対処法

 親族がなくなった際、相続放棄をすれば、故人が残した借金の返済を引き継がなくてよくなります。しかし、相続放棄をしたのに相続人に請求が来ることがあります。相続放棄したのに請求が来た際の対処法や、相続放棄しても返済をしなければいけないケースについて弁護士が解説します。

1. 相続放棄後の請求に支払い義務はない

民法では、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかをしなければならないと定められています。単純承認とは被相続人(亡くなった人)の財産を無条件で全て相続することであり、限定承認とは相続によって得たプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も引き継ぐことを言います。これに対し、相続放棄をすると、相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされ、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことになります。そのため、相続放棄をした人は、その後に、亡くなった人の借金について債権者から請求を受けたとしても支払う義務はありません。

2. 相続放棄をした後に債権者から請求が来た場合の対処法

まずは「相続放棄をしたのに借金の請求が来た場合」の対処法を紹介します。

2-1. 相続放棄が認められたことを伝える

家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、受理されたとしても、被相続人の債権者に通知が行くわけではありません。そのため、債権者はあなたが相続放棄をしたことを知らない可能性があります。そんなときは慌てずに、債権者に対して相続放棄を行っている旨を伝えましょう。相続放棄をしたことを伝えれば、債権者も基本的にはそれ以上の請求はしてこないでしょう。

2-2. 相続放棄申述受理通知書を提出する

債権者の中には「相続放棄をしているなら、その証拠を提出して欲しい」と主張してくる人がいるかもしれません。そのような場合には「相続放棄受理通知書」を債権者に示すことで、相続放棄が行われていることを理解してもらえます。もし手元に、相続受理通知書がない場合でも、相続放棄の申述をした家庭裁判所に申請することで、相続放棄が受理された旨の証明書を交付してもらうことが可能です。亡くなった人の借入先がすでに分かっていて「いつか連絡が来るかもしれない」という状態が嫌だという場合には、あらかじめ相続放棄をしたことを、これらの書類を添えて通知しておくことで事前に対処することもできます。

2-3. 取り立てが続く場合は弁護士に相談する

相続放棄をしたことを伝え、証明書を提示しても取り立てが続くような場合には、弁護士に相談し、法的に支払う義務がないことを明示してもらいましょう。弁護士に依頼し、債権者との連絡を弁護士に任せることで、債権者と直接やりとりする必要がなくなり、精神的な負担も軽減できます。また、万が一、借金を返済する必要があるかもしれないケースだったとしても、早めに相談することで今後の対策が立てやすくなります。

3. 相続放棄をする前に請求がきた場合の対処法

相続は突然発生するものなので、亡くなった人にどんな財産や債務があるか、相続人が把握していない場合も多いです。債権者からの請求によって、遺産に借金が含まれているのを知ることもよくあります。自分が相続人になった場合には、亡くなった人にどんな財産があるかだけでなく、どんな債務があるかについても、よく調べておくようにしましょう。亡くなった人宛の郵便物や、預金通帳の取引履歴などから、債務の手がかりを見つけることができるケースもあります。なお、相続放棄をする前に、債権者から請求を受けた場合であっても、相続放棄をすることは可能です。ただし、相続放棄は「被相続人が亡くなったことと、自分が相続人であることを知ったときから3ヶ月以内」にしなければなりませんので、この期間には十分注意しましょう。

4. 相続放棄をしても借金を返済する必要があるケース

相続放棄をしても、借金を返済しなければいけないケースもありますので、注意しましょう。

4-1 亡くなった人の借金の連帯保証人になっていた

相続人が、亡くなった人の借金の連帯保証人になっていた場合には、相続放棄をしたとしても借金を返済する必要があります。なぜならば、相続人自身が亡くなった人の連帯保証人となっている場合には、自己の連帯保証債務として借金を支払う義務を負うからです。この場合には、相続放棄をしたとしても、連帯保証人としての返済義務を免れることはできません。

4-2. 正式な手続きをしていない場合

相続放棄をするためには、被相続人が亡くなった後、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。中には「他の相続人に、相続放棄をする、と伝えたので相続放棄をしたものだと思っていた」「兄弟で、兄が遺産を取得し、弟である自分は何ももらわないということで、話はついているので、相続放棄をしていると思っていた」などというケースもあります。しかし、相続人同士で話し合っただけでは、正式な相続放棄とは認められません。また、「生前に遺留分を放棄する旨の手続きを裁判所に対して行っているので、相続放棄は行わなくてもいいのではないですか」という質問をお受けすることもありますが、遺留分の放棄の許可と相続放棄の申述は全く別の手続きです。遺留分放棄の許可は、亡くなった人の生存中に、亡くなった人の住所地の家庭裁判所に対して申立てをすることで、あらかじめ遺留分を放棄することができる制度のことです。従って、仮に、遺言によって全財産が他の相続人に相続されることになったとしても、遺留分放棄者である法定相続人は、亡くなった人の負債を相続することになります。そのため、遺留分放棄の許可を受けている相続人であっても、亡くなった人の死後に、改めて相続放棄の申述を行う必要があります。

4-3. 相続放棄が無効な場合

家庭裁判所に相続放棄の申述を行って受理された場合でも、実際には相続放棄の要件を満たしていなかったという場合には、相続放棄が無効だと判断される場合があります。

下記のようなケースでは遺産を相続したと見なされます。

・相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき

・相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったとき

・相続人が、限定承認又は相続放棄後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録に記載しなかったとき

そのため、相続放棄をする前に、亡くなった人の財産を処分してしまっていた場合には、相続について単純承認をしていたと判断される可能性があります。相続放棄をした後に、亡くなった人の財産を隠匿したり、自分のために消費してしまっていたりというような場合でも同様です。

4-4. 民事訴訟を起こされ裁判で負けた場合

債権者が相続放棄を無効だと考える場合には、相続放棄をした相続人に対して「亡くなった人の債務を支払え」という民事訴訟を提起してくる可能性があります。この場合には、その民事訴訟手続きの中で、相続放棄が有効か無効かが判断されます。相続放棄が無効であると判断され、債権者の請求が認められた場合には、相続人は亡くなった人の債務を相続したとして、債権者に対して借金を支払わなければなりません。

5. 相続放棄が正しく行われたか確認する方法

続放棄が行われると、相続放棄した相続人は、法律上、初めから相続人ではなかったものとみなされるので、次順位の相続人が、法定相続人としての地位を取得することになります。例えば、亡くなった人に子どもがいる場合、子どもが相続放棄をすると、亡くなった人の親が法的相続人になり、親も相続放棄をすると、亡くなった人の兄弟が法定相続人になります。次順位の相続人が先順位の相続人と連絡が取れない状態にあるような場合、相続放棄の手続きが行われているかどうか分からないという状況になる可能性もあります。このような場合には、第二順位以降の相続人は、相続放棄の申述が行われているかどうかについて、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に照会することによって確認することができます。

6.相続放棄後の請求でよくある質問

Q. 相続放棄されると債権者は泣き寝入り?

相続放棄が有効な場合には、債権者は相続放棄をした相続人に対して、請求を行うことができません。ただし、その場合には、次順位の相続人が法定相続人になるため、次順位の相続人に対して、被相続人の借金の返済を請求することができます。

Q. 遺産の一部を相続したら返済の義務はどうなる?

遺産分割協議を行って、遺産の一部を相続するなど相続人が相続放棄を行わなかった場合には、亡くなった人の債務についても返済義務を負うことになります。その場合、借金のような債務については、法定相続割合に応じて、各相続人に分割されます。例えば、相続人が2人いて、そのうちの1人が、亡くなった人の財産も債務も全て相続するというような遺産分割の合意を行ったとしても、債権者に対しては、それぞれが法定相続割合に応じて借金の返済義務を負うことになります。

Q. 返済してしまったお金は相続放棄後に返してもらえる?

相続放棄をした後に、債権者に支払ってしまったお金は原則、返してもらうことは難しいでしょう。民法では第三者弁済として、債務の弁済を債務者以外の第三者が行うことも認められているからです。ただし、例えば、その弁済が他の相続人の意思に反しているような場合で、かつそれを債権者も知っているような場合など、第三者弁済が無効となる場合には、支払ったお金を返してもらえる可能性があります。また、債権者に騙されたり、暴行や脅迫によって支払を強制されたりした場合には、弁済を取り消して返金を請求することが可能です。

7. まとめ 相続放棄は弁護士に相談を

相続放棄をすれば、亡くなった人の借金の返済はしなくてよくなります。相続放棄をしたのに債権者から請求が来る場合「相続放棄をしたこと」をまず伝えましょう。「相続放棄の証拠を見せろ」と言われた場合には、家庭裁判所から発行される書類を提出するのも有効です。一方で、亡くなった人の連帯保証人になっていたり、相続放棄の手続きがきちんとできていなかったり、相続放棄が無効になったりしたケースでは、借金の返済を引き継がなくてはいけないので注意しましょう。相続放棄の期限は「自分が相続人だと知ってから3ヶ月以内」です。悩みがある人は急いで弁護士に相談しましょう。

(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています)

竹森現紗(弁護士)プロフィール

福井県出身。アリシア銀座法律事務所代表弁護士。第二東京弁護士会所属。大手渉外法律事務所などでの勤務を経た後、銀座にアリシア銀座法律事務所を開業。相続問題や離婚・男女問題など家族にまつわる法律問題と、企業法務・医療機関向けの法務を主に取り扱う。男女問題については、離婚だけでなく、婚前契約や夫婦関係の再構築などの相談にも対応しているほか、結婚相談所アイデアルマリッジ銀座で結婚アドバイザーとしても活動している。

竹森現紗(弁護士)

相続会議2024/6/18(火) 7:03配信


2023年6月19日月曜日

突然届いた「借金1,200万円」の返済通知に絶望…父の葬儀後“流れで”遺産相続の話に参加した35歳・会社員の悲劇【司法書士の助言】

 離れた場所に住む子どもが、親が亡くなったタイミングで帰省し、そのまま流れで遺産分割協議を行うというケースは、非常に多くみられます。しかし、遺産分割協議を行ったあとに被相続人の借金が発覚した場合、思わぬトラブルに発展すると、司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏はいいます。こういった事態を防ぐには、どうすればいいのでしょうか。本記事で詳しくみていきましょう。

〇3ヵ月で決断が必要…「相続放棄」検討時のポイントは?

相続放棄とは、相続人が亡くなった方の権利義務の承継を拒否する意思表示のことを指します。プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い場合は、相続放棄をしたほうがいいといえます。相続放棄をする場合、相続が開始したことを知ってから3ヵ月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。これが受理されることによって、相続放棄が認められることになります。

相続放棄をしたあとは、最初から相続人ではなかったものとみなされるため、遺産分割協議等には当然参加しません。相続放棄手続きは選択期間が3ヵ月ととても短いため、注意点も多く存在します。具体例をもとにみていきましょう。

・遺産分割協議参加後は、原則「相続放棄不可能」

・帰省の流れで遺産分割協議に参加後、父の「1,200万円」の借金が発覚

都内の中堅IT企業で働くXさん(35歳)。3歳年下の妻と2歳になる子どもが1人います。地元は九州で、63歳の父親は飲食店を経営していました。その父親が亡くなったという報せを受けたため、Xさんは一時的に帰省。葬儀のあと相続の話になったため、そのまま遺産分割協議に参加しました。財産を相続することで話をまとめたものの、後日父が営んでいた事業の借金1,200万円の返済を求める書面が届いてしまいました。このように、「もし被相続人に個人的な借金があると知っていれば相続しなかった」という事例の場合、どうしたらいいのでしょうか。こういったケースは、筆者が司法書士として実務をやっているなかでもよくある話です。「相続をしたものの借金のことなど知らなかった」「知っていれば絶対に相続放棄していた」といったご相談をよくいただきます。遺産分割協議というのは、自分が法律上の相続人であること認めたうえで行うものになるため、原則遺産分割協議に参加したあとは相続放棄することができません。

〇遺産分割協議後、相続放棄が受理された事例もあるものの…

例外として、今回の事例のように、「相続人が被相続人に借金がないと信じて遺産分割協議をした」「もし多額の借金の存在を知っていたら相続放棄していたであろう」と考えられ、かつ細かな条件に合致していれば、相続人が借金の存在を知ってから3ヵ月以内に相続放棄の申述をした場合は受理すべきであると判事した裁判例も存在します。ただし、この「細かな条件」というのは相当ハードルが高く、類似ケースでも却下となっているケースもたくさんあります。したがって、原則としては先述のとおり、遺産分割協議に参加してしまったらそのあと相続放棄はできないと考えていただきたいです。父親が亡くなったと知り帰省し、その流れで遺産の話し合いに参加するケースはよくありますが、ぜひ相続放棄にはこういった注意点があるということを知っておいていただければと思います。

〇相続放棄ができない事態を防ぐ「3つのポイント」

「相続放棄ができない!」という事態に陥らないためには、以下の3つのポイントに気をつける必要があります。

1.故人の財産に手をつけない

まず、遺産の全容がわからないうちは、亡くなられた方の財産に手をつけるようなことは絶対にやめましょう。

2.遺産分割協議に参加しない

また、遺産分割協議に参加することも控えていただく必要があります。

3.負債調査を行う

さらに、負債の調査をしっかりと行っておきましょう。郵便物や保管物、通帳の確認を行い、信用情報機関に問い合わせる必要もあります。信用情報機関というのは大きく分けて「JICC(日本信用情報機構)」「CIC(割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)」「KSC(全国銀行個人信用情報センター)」の3つがありますが、この3つとも照会し、問い合わせておくことが重要です。金融機関からの借入やクレジットカードのローン等に関しては、信用情報機関に必ず記載があるため問い合わせればわかりますが、個人間の借金はなかなかわかりづらいです。借用証書などの書類がないと、借金が判明しないまま相続してしまう場合もあるため、十分に注意が必要です。また、信用情報機関に問い合わせをするにしろ、これは郵送で行うためかなりの時間(3週間~4週間)を要します。3ヵ月の熟慮期間内に相続放棄をしなければならないなか、調査に時間を要して相続をするか・相続放棄するか決定できない場合には、家庭裁判所に申し立てることで熟慮期間を延長することが可能です。相続放棄を検討するのであれば、同時進行で一気に手続きを進めていかないと間に合わないため、財産調査は個人で行うよりは専門家に依頼するほうがスムーズです。

◆まとめ

相続放棄手続きを失敗しないためにも、自らが相続人となる可能性がある人の情報については、生前のうちにある程度は把握しておいたほうがいいでしょう。

相続が発生した場合、

1.まずは財産調査をしっかりを行う

 2.相続放棄を希望する場合は、熟慮期間がわずか3ヵ月であるため早めの手続きを行う

というのがポイントです。相続財産の調査に関しては、相続の専門家である弁護士や司法書士に早期に依頼し、のちのトラブルを防ぐことにつながります。


加陽麻里布

司法書士法人永田町事務所

代表司法書士


幻冬舎ゴールドオンライン / 2023年6月18日 11時15分


〈死後にスマホの中身は見られたくない…〉プライバシーは守れて遺族に迷惑はかけない“1分で終わる”賢いデジタル終活術

 昨今、多くの人がスマートフォンやPC、インターネット上でさまざまな個人情報やデータを保存・管理している。そのため生前に情報を整理しておかないと、もし自分が突然死んでしまったとき、家族やパートナーが手続きなどを進めるうえで非常に困ってしまうことも。最低限やっておきたい「デジタル終活」を、日本デジタル終活協会の代表理事・伊勢田篤史氏に聞いた。

〇死ぬ前にやっておきたい「デジタル終活」

人がいつ亡くなるのかは、わからないもの。もし、不慮の事故や病気で自分が死んでしまったときに、まず真っ先に困るのは遺族です。遺族は行政的な手続き以外にも、銀行や保険、遺産相続に関する手続きなど、さまざまな作業に追われます。特に、昨今は多種多様な情報やサービスがデジタル化しており、たとえば、故人がどんな証券会社と取引していたのか、どんなサブスクリプションサービスを契約していたのかなども、ひとつずつ確認していかなければなりません。とはいえ、遺族になる可能性のあるパートナーや子どもからしてみれば、あなたが亡くなったときの対応について相談したりするのは、「縁起でもない」と思われそうで、なかなか気が引けます。そのため、遺族に対しての負担を少しでも減らすための準備は、本人が能動的に行っておくことが大切です。でも、いざ「終活をしよう」と意気込んだところで、具体的に何をどうすればよいのかは意外とわからないもの。また伝達事項を細かく残そうとして、途中で疲れて頓挫してしまったら元も子もありません。そこで、今回は日本デジタル終活協会の代表理事・伊勢田篤史さんに “デジタル遺品”を残すうえで、心掛けておきたいポイントを伺いました。

〇何より大切なのは「スマホのパスワード」

??伊勢田さんが代表理事を務める「日本デジタル終活協会」では、普段どのような活動をされているのでしょうか。

日本デジタル終活協会は、その名のとおり「デジタル終活の普及」を目的に2016年に設立した団体です。設立当初はデジタル終活に特化した「エンディングノート」(自分の死後に備え、遺族に伝えたいことを書き留めておくノート)を作ることからスタートしました。現在は、セミナーやメディアを通じてデジタル終活をわかりやすく伝える活動を中心に行っています。

??「デジタル終活」の分野において、遺族の方は、実際にどんな点で困ることが多いのでしょうか?

やはり「スマホやPCのパスワードがわからない」というケースが圧倒的に多いですね。PCなら何とかなることもありますが、特にスマホはパスワードロックを解除するのがかなり大変です。一般的に、自分自身のスマホのパスワードを家族やパートナーと共有しているケースは少ないように思われますが、万が一の際、スマホのログインパスワード(パスコード)がわからず、そもそもスマホ内にアクセスすることができないというケースは今後増えていくものと思われます。故人のスマホのログインパスワード(パスコード)がわからない場合には、データ復旧の専門家にご相談されるとよいでしょう。

??故人のスマホのロックを解除してくれる業者がいるんですね。

はい。ただ、専門家にスマホのパスワードロックを解除してもらう場合、ケースバイケースですが、半年から1年以上かかることもあり、また解除費用も非常に高額(20~30万円程度)となってしまうこともあります。特に、最新のOSや端末については、特に時間がかかるようです。スマホやPCが開けないと、遺族としてはかなり困ることになります。たとえば、故人の友人を葬儀に呼びたいけれど、連絡先がわからない、遺影となるいい写真が見つからない等のトラブルはよく耳にします。また、相続関連では「サブスクリプションで毎月何に課金していたかがわからない」「ネット証券会社がどこかわからない」といったケースがよくあります。そういう事態を防ぐために、私はとにかく「スマホのパスワードを残しましょう」というメッセージを発信しています。もちろん、PCのパスワードも残しておいてほしいところですが、まずはとにかくスマホです。スマホのパスワードさえわかれば、あとはどうにかなるケースが多いので。

〇自分の死後もプライバシーを守るために

??ただプライバシーの関係上、「生前にログインパスコードを伝えるは嫌だ」という方も多いですよね。その場合は、どう対処すればよいでしょうか?

生前にスマホのパスワードを知られたくないなら、「亡くなったときに伝わるような仕組み」を作っておきましょう。もちろんエンディングノートに記しておくという手もありますが、ほかの手段でも構いません。エンディングノートの場合、たとえば「家族との想い出を書きましょう」といったパートで何を書こうか困ってしまい、なかなか作成が進まないこともあるので。

??「亡くなったときに伝わるような仕組み」とは、具体的にどのようなものでしょう?

あまり難しく考えず、まずは遺族の方がわかるように、スマホのログインパスワードを簡単なメモで残しておきましょう。遺族が見る可能性が高いであろう財布や通帳に挟んでおく、一人暮らしであれば冷蔵庫のドアに貼っておく等の方法で、万が一の際でもパスワードが容易に伝わるような仕組みを作っておくとよいでしょう。また、たとえば保険に加入しているならば、その保険証券が自宅にあるはずなので、その保険証券の中に、ログインパスワード等を書いたメモを入れておくという方法も考えられます。なお、専属の担当者がいるような場合には、その担当者に対して、「保険証券の中にログインパスワード等を書いたメモが入っているから、万が一の際に家族に伝えてほしい」とお願いしておくことも考えられます。

??「自分の死後であっても、スマホの中は見られたくない」といった場合は、どうすればよいでしょうか?

その場合は、生前に「遺族にとって最低限必要な情報」をまとめて残しておきましょう。たとえば証券なら、取引している会社名さえわかれば、遺族は何とかなるものです。「どのような銘柄に投資しているのか」といった詳細は省いて、会社名だけ記しておく。そういった最低限のことをノートやメモにまとめておけば、遺族はそれを確認するだけで済み、故人としてもスマホ内を漁られる可能性が低くなります。そして、そのノート等からPCなどに誘導する場合には、遺族用のフォルダをPC上に用意しておいて、そこまでの導線を記載しておくとわかりやすいです。あらかじめ「PCに入って、このフォルダを開いて」と指示しておけば、わざわざほかのフォルダまで探られる心配もグッと減ります。なお、「指示したフォルダ以外は見ないでほしい」と具体的に指示をしておくことも重要です(生前から、このような指示をしても疑われないような人間関係を築いていくことも大事です)。

いつ死ぬかわからないから、シンプルに

??デジタル終活は少々煩雑なイメージもありましたが、実は至ってシンプルなんですね。

もちろんベストなのは、自分がどういうツールやサービスを使っていて、担当窓口が誰で、ID・パスワードがどうなっているか、といった情報をきちんとノートなどで残しておいて、「もし自分が死んだら解約して」としっかり家族に伝えておくことです。しかし夏休みの宿題と一緒で、締め切りギリギリまでやらない人(かつての私もそうでしたが)は、何を言ってもやりません。終活の場合は「いつ終わりがくるのかがわからない」という点が、少々厄介なのです。明日死なないのに、今日やる必要はない、と考える人は多いのが実情といえるでしょう。作業としては30分くらいで終わることであっても、「自分が死ぬ」ということを考えなくてはいけないので、ついつい先送りしてしまいがちです。しかも、本人にとっては先送りしても困らないですからね。

??先送りにしがちだからこそ、シンプルな手段を薦める、と。

はい。なので、私としては「スマホやPC、各種サービスのパスワードをすべてノートに羅列して…」といったことをやってもらおうとは考えていません。とにかく、スマホだけでも構わないのでログインパスワードを残しておくこと。まずは、それだけでいい。これだけやっておけば、デジタル終活はほぼ完了です。これなら1分で終わります。そのうえで、もし「もっときっちりと残しておきたい」と思ったならば、エンディングノートを作成したり、遺族とあらかじめ話し合ったりと、本格的にやっていただければよいのです。


文/井上晃


集英社オンライン / 2023年6月13日 17時1分


2023年5月13日土曜日

タンス預金「3,000万円」が税務署にバレて…夫の死後、妻子に告げられた「追徴課税額」【税理士が解説】

 きちんと相続税の申告を済ませたつもりが、把握していない財産やうっかり計上し忘れた財産があった…そんなとき、相続人にはどのような事態が起きるのでしょうか? 本稿では、タンス預金3,000万円をうっかり申告し忘れた八代家の事例をみていきましょう。辻・本郷税理士法人 井口麻里子税理士が解説します。

〇キャッシュレスの時代でも「タンス預金」は健在

キャッシュレス決済がすっかり日常となった昨今ですが、まとまった現金を自宅に置いている方は結構多いものです。オレオレ詐欺などでご高齢の方が何百万、何千万円と受け子に渡してしまっている事件を、再三、耳にしますよね。今日ご紹介する八代家では、昨年、夫の慎司さん(仮名)が亡くなりました。慎司さんは自宅のタンスに3,000万円を置いてあったのですが、妻の和恵さん(仮名)はうっかりこの3,000万円を慎司さんの相続税申告に入れ忘れてしまったのです。後日行われた税務調査で果たしてどんな追及がなされたのか、八代家の顛末をご紹介してまいりましょう。

〇相続税申告の後、亡き夫の部屋から見つかったのは…

八代慎司さんは長らく事業を行っていましたが、70歳を機に事業はすべてたたみ、その後は妻の和恵さん(仮名)と悠々自適の生活を楽しんできました。慎司さんの体は丈夫でしたが、昨年の1月、体調不良を訴え救急車で運ばれ、そのわずか4日後に亡くなりました。あまりに突然の別れで、頭も気持ちも追いつかない和恵さんでしたが、混乱した状態にありながらも、税理士と協力してなんとか慎司さんの相続税の申告を済ませました。和恵さんは元来、書類や事務手続きなどが苦手なうえ、初めてのことばかりだったので、申告納税がすべて済んだときは、心底ほっとしました。ようやく落ち着きを取り戻し、少しずつ慎司さんの部屋を片付けようとしたところ、押し入れの中にあるタンスから、紙袋を発見しました。「あ!」和恵さんは思い出しました。そうです。生前の慎司さんは、商売をやっていた習慣か、常にある程度の現金を手許に置いておきたがりました。相続税の申告のための書類を収集していた際に、和恵さんはこの紙袋を見つけていました。そして中に3,000万円の現金が入っていることを発見したのですが、そのときの和恵さんは別のものを探していたため、これを元通りに戻し、それっきり忘れてしまっていたのです。税理士に伝えることもなく、相続税の申告はそのまま済んでしまったのでした。「どうしよう。今さら税理士の先生に言ってもご迷惑になるだけよね。」と考え、それに再び事務手続きなどに関わるのは気が重くて、またもやそのまま元通りにタンスの奥へと戻しました。

〇税務調査官「慎司さんのお部屋を見せてください」

慎司さんが亡くなってから1年半ほど経った頃、税務署が税務調査へとやってきました。調査当日、午前中は慎司さんについて、過去のことや家族のこと、趣味、交友関係などを中心に聞かれ、思ったより和やかに過ぎました。午後になり、調査官が「慎司さんのお部屋を見せてください」と言い出したので、和恵さんは調査官を2階の部屋まで案内しました。調査官は次々に「これを開けていいですか?」などと尋ねながら引き出しや袋を開けていきました。そして数分後、ついにあの押し入れの中のタンスから紙袋が引っ張り出され、中から3,000万円の現金が出てきたのです。厳しい目の調査官に対し、和恵さんはことの経緯を説明しました。しかし調査官によれば、和恵さんが意図的にこれを申告から外したのではないか?隠したのではないか?とかなんとか。和恵さんの頭は真っ白になりました。慎司さんの急な死ですっかり頭が混乱し、精神的にも不安定な状態だったとはいえ、二度にわたり、3,000万円をタンスの奥へ押しやったのですから。

〇税務調査官は「確信」を持って調べに来る

税務署が税務調査に入る際には、前もって入念な下調べをしてからやってきます。特に現預金の漏れについては、税務署は徹底的に注力します。まず、税務署は被相続人の銀行口座や証券口座について、過去の口座の入出金をデータがあるだけ遡って調べます。まとまった金額の出金があり、それを入れた口座がない場合は、不動産や車といった高額なものを購入したり、借りていたお金を返済したり、なにかしらに使ったはずです。ところが、調べてみてもこういった節がない場合があります。また、税務署は被相続人だけでなく、その家族の銀行口座等のデータも調べられる限り調べます。被相続人の口座からある日500万円が引き出されていて、その後息子の口座に500万円の入金が認められたら…? 明らかに両者は紐づけられるでしょう。そして、息子さんから贈与税の申告書も出ておらず、その後の期間に返済を受けた様子もなければ、贈与税の申告漏れか、息子さんに貸したお金かお預けたお金か、ということになります。こうして調べた結果、ある日500万円引き出して、高額なものを購入した形跡もなく、借金を返済したようでもなく、息子の口座へ入ったわけでもなければ…。そう、タンス預金が疑われるのです。それから、税務調査で大活躍しているのが、国税総合管理システム、通称KSKシステムと呼ばれるものです。国税庁や全国の税務署が納税者の申告、納税情報を一元管理するシステムで、これによりその納税者について、どれだけの所得が毎年あって、この年にこれだけの贈与や相続を受け、この年に不動産を売却し、といった情報をすべて把握できることになっているのです。このシステムにより税務署はその被相続人の合理的な金融資産残高を想定し、それより大きくズレた申告がされていれば、家族の口座へ移っているか、自宅のタンスに眠っているか、と考えるのです。ですから、現金なんて黙っていればわからない、という考えは、通用しないのです。八代家の場合、慎司さんが亡くなる前の5年ほどの間に、100万円単位のまとまった金額の引き出しが繰り返され、その合計は3,200万でした。和恵さんや子供たちの銀行口座への移動はなかったため、タンス預金と目星をつけて調査に来たのでした。

〇タンス預金がバレて課される「ペナルティ」

相続税を意図的に減らそうとしたのではなく、和恵さんのようにうっかり忘れてしまった場合でも、相続税の申告漏れがあった場合には、次のようなペナルティが課されます。

■申告漏れに課される「過少申告加算税」

まずは、今回のケースのように申告自体はしたものの、申告に漏れがあった場合は、「過少申告加算税」というペナルティが課されます。追加で納めることとなった税金が50万円までは10%、それを超える分については15%の割合で、追加で納める税金にプラスされます。

■納税が遅れるほど増える「延滞税」

さらに過少申告加算税に加え、本来であれば当初の申告期限までに納めるべき税金の支払いが、調査を受けて改めて申告するまでのあいだ遅れていたわけですから、その遅れた期間について「延滞税」という、利息のような税金がかかります。

■悪質と判断された場合の「重加算税」

また、相続税を意図的に回避するためにタンス預金を隠したと判断された場合には、非常に悪質である、ということで、「重加算税」という大変重いペナルティが課されます。重加算税になると、追加で納めることとなった税金の35%が過少申告加算税の代わりにプラスされることとなります。さらには、配偶者の税額軽減という大きな特例が使えなくなってしまいます。

〇八代家の顛末

八代家の場合はどんなペナルティを受けたのか?幸いにも意図的に隠した、とまでは判断されなかったため重加算税は免れましたが、3,000万円という追加財産に600万円の本税がかかり、過少申告加算税と延滞税も加わって、合計で700万円を超す追徴税額を課されることとなったのです。本件は、すっかり慎司さんの相続は片付いたものとして平穏な生活を取り戻していた八代家に、突如降って沸いた大事件でした。和恵さんは、なんだか慎司さんの人生の終わりにミソをつけてしまったみたいで、また子供たちに申し訳なく、いたたまれない思いで過ごすこととなりました。和恵さんのように、後味の悪い思いをしないように、申告の際には充分に気をつけたいものです。相続税の申告漏れは、このように重いペナルティが課されますから、租税回避はもってのほかですが、くれぐれも「ついうっかり」には気をつけましょう。


井口 麻里子

辻・本郷税理士法人

税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士


gentousya online 2023/5/8(月) 12:02配信


2023年4月7日金曜日

「1千万円ずつアルミホイルで包み押し入れに」…後絶たない相続税申告漏れ、目立つ高額化

 遺産にかかる相続税の申告漏れが後を絶たない。昨年6月までの1年間に国税当局が調査した対象のうち5000件超で見つかり、計約2230億円の申告漏れを指摘した。1件当たりの額は過去10年で最高で、富裕層などの大口事案が相次いだとみられる。1億円以上の高額な相続財産の無申告や遺産隠しも目立ち、国税当局は海外口座などの情報を収集して課税逃れの対策を強化している(牛島康太)。

叔母の遺産のうち、約1億5000万円を隠して過少申告したとして、福岡県内の会社役員女性(70歳代)ら相続人3人は2021年、福岡国税局から重加算税を含む約8000万円を追徴課税された。関係者によると、子どもがいない叔母と女性は12年、判断能力が低下した場合に財産管理などを任せる「任意後見契約」を結び、13~14年、叔母名義の複数の口座から約5000万円ずつ計3回出金した。1000万円ずつアルミホイルで包み、叔母宅の押し入れの布団の下や、本棚の奥に隠していたという。叔母が19年に亡くなり、女性ら3人は相続財産のうち、隠した約1億5000万円を除いて申告。税務調査で現金の行方について説明を求められ、女性は隠し場所を打ち明けたという。国税局は、悪質な仮装・隠蔽(いんぺい)行為があったと判断した。

〇「黙っていれば…」

「黙っていればわからないと思った」。福岡国税局から昨年、相続財産約1億2000万円の無申告を指摘された福岡県の会社員男性(70歳代)は調査に対してそう語ったという。母親が19年に死去したが、男性ら相続人は相続税を申告しなかった。21年に行った税務署からの問い合わせにも、申告すべき相続税がないように装う回答書を出した。しかし、調査で男性は18~19年、母親名義の預金口座から50万~500万円を約70回にわたって出金し、現金はすべて男性名義の預金口座に入金していたことが判明した。男性ら相続人2人は重加算税を含む約1400万円を追徴課税された。

国税庁によると、昨年6月までの1年間の大口、悪質な事案を対象にした調査で申告漏れは5532件で、前年比1・2倍の2230億円。1件当たりの申告漏れ額は過去10年で最高の3530万円だった。福岡国税局管内(福岡、佐賀、長崎各県)は197件で同1・3倍の75億円。1件当たりの追徴税額は過去10年で最高の884万円に上った。新型コロナウイルス禍で調査件数を厳選する中、富裕層などの大口事案が確認されたことも影響している可能性があるという。

〇口座情報、各国で交換

国際的な脱税や租税回避に対応するため、各国の金融口座情報が交換される「CRS(共通報告基準)」に基づき、当局が申告漏れを指摘したケースもある。18年に死去した男性の妻や子の相続人5人は、大阪国税局から計約10億6000万円の申告漏れを指摘された。追徴税額は、重加算税を含め約6億円。海外の金融機関にあった預金や海外の不動産などを申告していなかった。同局はCRS情報でアジアの金融機関に多額の預金がある男性名義の口座を把握。海外資産の申告がなかったため、調査に着手したところ、男性はこの国にマンションを持ち、口座に家賃収入が入っていた。妻らは「悪いことだと知りつつ、税金が安くなったらと思って海外財産を申告しなかった」と話したという。国税当局は近年、こうした海外の口座情報のほか、亡くなった本人や相続人ら関係者のSNSなどにも監視の目を光らせている。

◆相続税=土地や預貯金などを一定額以上相続した場合にかかる。遺産総額から基礎控除などを差し引いた額に税率をかけて計算する。遺産が多いほど税率は段階的に高くなり、最高税率は55%。配偶者と子ども2人が相続する場合、遺産総額が4800万円を超えると課税対象となりうる。


読売新聞2023/4/4(火) 5:03配信


2022年12月7日水曜日

無申告は危険…税務署に「タンス預金」が高確率でバレる理由【税理士が解説】

 お子さんなどに相続で財産を残す際、相続税を回避するためにタンス預金をしておこう!どうせ税務署にはバレないから大丈夫だろう!などと思ったことはありませんか? それは少し考えが甘いかもしれません。富裕層・IPO税務を専門とする黒田悠介税理士(税理士法人Bridge 代表)が、数々の経験に基づき、「タンス預金がバレる理由」を解説します。

〇タンス預金とは?タンス預金の何が悪いのか

まとまった額の現金を金融機関などに預けず、家のタンスや金庫等に保管しておくことを通称「タンス預金」といいます。相続発生時に亡くなった方の銀行口座が凍結されても、現金があれば葬儀費用などの急な出費の際に困らないですむなどのメリットもあり、タンス預金は多くの方がされていらっしゃいます。もちろんタンス預金をすること自体は法的にまったく問題ないのですが、相続税を逃れようと悪い使い方をすると、大きなトラブルを招くことになります。

〇「相続税回避のためのタンス預金」は節税でなく脱税

さきほど話したようにタンス預金をすること自体は悪いことではありません。銀行に預金として預けるのも、自宅のタンス・金庫等で保管しておくことも、個人の自由なので問題はありません。大事なポイントは、タンス預金は故人の財産なので相続税の課税対象となり、相続税申告に含めなければならないということです。たとえば、タンス預金があるかなんてどうせ税務署にはわからないだろう!と考え、相続税を逃れようと隠して申告に含めない。これは合法的な節税ではなく、単なる脱税となってしまいます。こうした悪い使い方を考える方もいらっしゃいますが、その多くはタンス預金が税務署にバレてしまい、思わぬペナルティを課されています。しかし、タンス預金は銀行に預けていないお金なのに、なぜその存在が税務署にバレてしまうのでしょうか?

〇タンス預金はなぜバレる?

税務署ではタンス預金があるのではないか?と常に目を光らせています。税務署は、おおむね以下で説明する4つの方法で皆さんのタンス預金の存在を発見しています。

①国税総合管理(KSK)システムで捕捉

⇒税務署は、全国すべての納税者の申告納税などの情報を一元的に管理する「国税総合管理(KSK)システム」を使用しています。KSKシステムには申告情報に加えて、資産の購入や売却履歴などの個人情報が蓄積されています。税務署では、このシステムにより私たち国民のひとりひとりの稼ぎや財産をおおむね把握しているのです。たとえば財産を2億円くらい持っていそうだなとKSKシステムではじき出された人が、1億円しか記載せず相続税の申告をしたとしましょう。そうすると税務署は差額の1億円をどこかに隠しているのでは?と考え調査を行うのです。

②過去の口座履歴から捕捉

⇒タンス預金は、預金口座から引き出した現金がもととなり蓄積されているものが多いです。ですので税務署は過去数十年にわたって、亡くなった方の口座履歴を調べます。口座の過去の出金記録をさかのぼって調査し、不明な出金があれば、これはタンス預金になっているのではないか?と相続の申告漏れを見つけるのです。また、50万円・100万円といったまとまった出金でなくともタンス預金の存在はバレてしまいます。一回あたり数万円の出金であったとしても月・年で集計し大きな金額となっていた場合、故人の生活費と照らし出金が多すぎれば、その差額はタンス預金による申告漏れでは?と税務署は仮説を立て指摘をするのです。

③相続した後の口座から捕捉

⇒税務署はとても強い調査権限を持っています。実は亡くなった方だけでなく、財産を受け継いだ相続人やその家族の口座も調査することができるのです。たとえば、相続人の方が遺産整理をしている最中にタンス預金を発見したとします。そして、そのタンス預金を相続税申告には含めず、こっそり自身や配偶者名義の預金口座に入金したとします。税務署は相続人やその家族の口座も金融機関に照会し調べますので、そこに出どころ不明な入金があれば、これはタンス預金だ!と税務署にバレることになります。

④実地調査で現金を捕捉

⇒税務調査では、通帳やハンコ等を取ってきてもらえますか?と調査官が相続人にお願いする場面に遭遇することがよくあります。相続人の方がタンス・金庫などへ取りに行くと調査官が後ろからついてきて、そこにあるタンス預金を発見する!という流れもあります。銀行の貸金庫も必ずチェックされますし、納税者が何か隠しているな?と思った場合には、家宅捜索のように、隅から隅まで徹底的に調査をされます。公表されているケースでは、神棚や衣装ケース、座布団の間、なかにはガレージのタイヤといった様々な場所から隠された現金が発見されています。税務調査官は調査のプロ! こんなところを調査するのか?といった場所にある現金もしっかり見つけています。タンス預金の「バレない隠し方」はない

税務署は最初からタンス預金があるのでは?と相続人を疑い徹底的に調べますので、タンス預金はバレるものと思っていたほうがよいです。タンス預金がバレた場合、追徴課税が発生し、加算税などのペナルティが課されます。また、悪質な脱税と判断された場合には刑事罰となり、1,000万円以下の罰金刑や10年以下の懲役刑を科せられてしまうこともあります。葬儀などの急な出費に備え現金を自宅に保管しておくことはよいですが、相続税を回避するためのタンス預金は絶対にNGです。申告していないタンス預金がありドキッとした読者は、修正申告などでペナルティの軽減ができますので、税理士等の専門家に一度相談することもおすすめです。


黒田悠介税理士法人Bridge代表、税理士・政治資金監査人


幻冬舎ゴールドオンライン / 2022年12月6日 18時15分


2022年8月21日日曜日

家族が死亡したとき、銀行口座はどうすればいい?

 ○家族が亡くなった後の、預貯金や有価証券などの相続手続きのポイント

相続が発生し被相続人に金融資産つまり、預貯金や株などの有価証券がある場合、その金融資産を相続人が引き継ぐための相続手続きが必要になります。思いのほか手間や費用がかかるため、全体の流れを把握しておくことが大切です。

○まずは相続手続きの全体の流れを知っておこう

被相続人名義の金融資産を相続人が引き継ぐ流れは以下のようになります。

・被相続人が取引をしていた金融機関を確認する

・戸籍謄本や印鑑証明書を取得する

・各金融機関に問い合わせ、残高を確認する

・残高が確認できたら引き継ぐ(名義変更や解約する)ための必要書類を準備する

・必要書類が整ったら各金融機関に相続手続きを依頼する

・相続手続きが完了したか確認する

1. 金融機関の確認

最初に行うのが金融機関の確認です。通帳、カード、証書、報告書、配当通知などから被相続人が取引していたと思われる銀行や証券会社などの金融機関をリストにしましょう。金融機関は相続が発生したことが分かると全ての取引を凍結してしまうため、まだ連絡はせずに先に通帳の記帳などをしておくとよいでしょう。

※民法改正により、凍結した預貯金の口座であっても当面の生活費が引き出せるようになりました。

2. 戸籍謄本、印鑑証明書の取得

金融機関への残高の確認や相続手続きには、戸籍謄本や印鑑証明書が必要になります。なお、ほとんどの金融機関で、戸籍謄本や印鑑証明書は提示後に返却を依頼すれば戻してもらえます。金融機関の数と同じ数の戸籍謄本や印鑑証明書を取得すると費用がかさみ、最終的には余ってしまいますので、1通ずつ用意すればよいと思います。

また法務局の法定相続情報証明制度を利用すれば、その後の手続きもスムーズですのでお勧めです。

3. 各金融機関への問合せ

取引先が分かったら、各金融機関に問い合わせ(この時点で口座が凍結されます)、残高の確認(相続発生日時点の残高証明書の発行)を依頼します。念のため「他の支店にも取引がないか」「全て(預貯金、出資金、有価証券など)の残高」の確認を依頼しましょう。

依頼後1~2週間程度で証明書が発行されます。原則として依頼時に必要なものは以下の通りです。

・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本

・依頼者が相続人であることが分かる戸籍謄本

・依頼者の身分証明書、実印、印鑑証明書(発行から3カ月以内などの条件あり)

・残高証明書発行手数料(各金融機関によって異なります)

・各金融機関の所定の依頼書に自署・実印(経過利息や解約金額の証明も依頼するとよい)

4. 相続手続き書類の準備

全ての残高が確認できたら相続手続きを行うための準備をしましょう。預貯金は名義変更か解約のどちらも可能ですが、有価証券は原則は相続人の口座に移し替える(移管)のみとなりますので、相続人の口座がない場合は口座開設が必要です。

ゆうちょ銀行は他の銀行には振り込めないため、相続人の口座がない場合は口座開設をするか、払戻証書を受け取って窓口で現金化することになります。原則として、相続手続きに必要なものは以下の通りです。

・被相続人の出生から死亡までが確認できる戸籍謄本

・相続人全員の戸籍謄本

・相続人全員の印鑑証明書(発行から3カ月以内などの条件あり)

・各金融機関の所定の依頼書を入手し相続人全員の自署

・実印(遺産分割協議書があると取得者のみの自署・実印の場合あり)

・遺産分割協議書(ある場合)

・被相続人の通帳、カード、証書など

・マイナンバー(通知カード、個人番号カードなど)の写しを要求されることもあります

5. 相続手続きの依頼

相続手続きに必要な書類などが全て整ったら、各金融機関に相続手続きの依頼をします。依頼時は念のため依頼者の身分証明書と実印も持参しましょう。なお各金融機関の窓口での手続き時間は30分~1時間程度かかるため、複数の金融機関を回る場合は1日がかりになることもあります。時間に余裕がある平日に行うことをお勧めします。また事前に金融機関へ訪問の予約などの連絡をしておくとスムーズです。

6. 相続手続き完了の確認

概ね1~2週間程度で相続手続きが完了します。各金融機関での手続きが完了したか、相続人(受取人)の通帳を記帳するなどで確認しましょう。振り込まれていれば無事完了ということになります。金融機関の窓口での一般的な相続手続きの流れについて説明しました。郵送で行う場合や遺言がある場合などは、流れや必要な書類などが少し異なるので、各金融機関に確認してみましょう。金融機関の相続手続きは、数が多いととても大変です。生前に口座数を整理しておいたり、取引機関や支店名をリストにしておくことも、大事な相続対策の一つです。

文:小野 修(ファイナンシャルプランナー)

税理士法人レガシィ所属のAFP。年に100件超の相続相談・対策を担当。資産家やトラブル事案を得意とする。相続が発生した人だけでなく、将来の相続が心配な人の生前対策、相続後の節税プランニングなども行っている。

(文:小野 修(ファイナンシャルプランナー))

オールアバウト / 2022年8月20日 18時30分


2022年7月12日火曜日

売ろうにも売れない不動産の相続トラブル「更地にしたら税金4倍」で泣きっ面に蜂

 相続トラブルはお金持ちだけの話──そう安易に思っていたら大間違い。親が残すのは「プラスの財産」ばかりでなく、借金などの「マイナスの財産」も含まれる場合があるのだ。実際の相続の際に特にトラブルになりやすいのは不動産だ。埼玉県在住の青木史子さん(49才・仮名)は3年前に他界した母から、静岡県の海沿いにある実家近くの土地を相続した。土地を実際に見たことはなく、地元の不動産業者に電話で聞いたところ「立地がいいから買い手は見つかるだろう」と言われたので、いつか見に行こうと思いながらもつい放置していた。そんなある日、市役所から一通の通知が届いた。そこには、相続した土地に大量の廃棄物が不法投棄されて、近隣住民からの苦情が殺到していると記されていた。慌てて業者に連絡すると「撤去には1000万円かかる」と言われてしまった。そんな大金はとても払えない青木さんは、急いで地元の不動産業者に土地を引き取ってもらえないかと打診したが……。「“不法投棄で一部の土壌が汚染されて、浄化費用は500万円です”と言われました。こんなことになるなら、相続放棄しておけばよかった」(青木さん)『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)の著者で司法書士の椎葉基史さんが指摘する。「相続人には、相続した不動産を管理する義務が生じます。“土地は持っておいて損はない。不要になったら売ればいい”と考える人が多いですが、どのような土地なのか確認することもなく、安易に相続するのは避けるべきです」

○建物の解体費200万円!でも土地は売れず…

都内在住の隅田洋一さん(54才・仮名)は両親を亡くした後、秋田県の実家を相続。帰郷の予定はなく相続放棄を考えたが、思い出の詰まった実家を手放せなかった。誰も住んでいない実家には年3万円ほどの固定資産税がかかり、無駄な出費を嫌った隅田さんは実家の売却を決意。不動産業者の助言もあり、まずは200万円かけて古びた建物を解体して更地にした。ところが期待通りに事は進まなかった。その後、いくら値を下げても土地はまったく売れなかったという。「住宅が建っていると評価を6分の1にする減税措置があるのですが、更地にするとそれが適用されないため、固定資産税は6倍になりました。維持費を減らすために更地にしたのに、解体費が200万円かかったうえにトータルの税金が3~4倍になって泣きっ面に蜂です」(隅田さん)

椎葉さんは「土地神話」に警鐘を鳴らす。「高齢の人ほど“土地は絶対売れる”との神話を信じていますが、人口が減る日本ではもはや不動産は確実に売却できる資産ではありません。実際に生前の親から、“あの土地は絶対に高く売れるから”と言われていたので軽く考えて相続したら、どこの不動産業者も取り扱わず、相続が重荷になる事例が増えています。特に田舎の持ち家や農地、山林などを相続すると、固定資産税や維持費がかかり“負動産”となるので、金融資産がほとんどない場合は相続放棄を選択肢とすべきです」相続した実家を「空き家」として維持することにも警戒が必要だ。「いまは『特定空き家』に指定されると、家屋があっても更地と同様の税負担を強いられます。空き家はほかにも衛生上、景観上、防犯上などさまざまな問題があり、私が知るなかでは、住宅密集地の古い空き家が倒壊して隣の家に被害が生じ、130万円を請求されたケースがありました」(椎葉さん)誰も住まないなら、相続のタイミングで家を放棄することを考えるべきだ。


※女性セブン2022年7月7・14日号


マネーポストWEB / 2022年7月5日 16時15分