2023年3月21日火曜日

労働者を食い物にする会社のなんとも悪質な手口 業務委託、シフト制、派遣社員に潜むリスク

 新生活が始まるシーズン。期待に胸を膨らませる一方、初めてのアルバイトや新天地で働く方は不安も多いことでしょう。もし勤め先がブラック企業だったら……。ブラック企業を事前に察知して回避する方法や、実際にブラック企業に勤めてしまった際の対処法を身につけておきたいところです。『20代からの働き方とお金のこと』より一部抜粋、再構成して、不幸な働き方を避けるための秘訣をお届けします。 

〇業務委託は「偽装雇用」にご用心

IT企業に勤めていたイトウさん(仮名)は、ある日社長から「正社員ではなく、業務委託の形で再契約しないか」という提案を受けた。業務委託とは、会社と雇用契約を結ぶのではなく、「この業務を行ってくださいね」と会社から依頼を受けて発生する仕事のことだ。日給や月給ではなく、1つの案件をこなすごとにいくら、といった対価の支払われ方が主流となっている。社長からの誘い文句としては「成果報酬制だから働けば働くほど儲かる」「時間に縛られず働ける」といったものだった。いい条件だと思い、業務委託契約を結び直したイトウさんだったが……。まず、自由な時間などまったくなかった。始業時間は社員の頃と変わらず、残業時間は倍増。しかも契約上、残業代は出ない。収入は激減した。このケース、「偽装雇用」と呼ばれる悪質なやり方で、イトウさんは業務委託を受けている立場とはいえない。なぜなら社員の頃と同じ働き方を強いられているからだ。実際の業務内容から、契約は雇用契約であると客観的に判断できる。よって社員の頃と同様の給料は保証されるべきだし、残業代も請求できるわけだ。業務委託契約なら都合よく人材を使うことができるうえに、社会保険料や残業代などの負担を背負わずにいられる。そう勘違いしている悪質な会社は少なくない。より悪質なケースがある。ウチダさん(仮名)は「バイク1台で起業、1日で2万円以上稼げる」という求人触れ込みに惹かれ、バイク便会社との業務委託契約で配送業を始めた。朝9時、指定された広場に自前のバイクでやって来たウチダさん。同じようにバイクを走らせてきた仕事仲間が何人かいる。そこで社員から告げられたのは「仕事が来たら順番に振るので、それまで待機していてください」だった。夕方の5時まで待機するだけの日もあった。仕事をもらえてもせいぜい1件か2件、売り上げは数千円。ガソリン代は自腹だから、ほぼ毎日赤字だ。「契約を解除したい」と社員に申し出ると、「なら違約金5万円を払え。契約書に書いてある」と冷たくあしらわれた。違約金について事前の説明はいっさいなかった。これは明らかな偽装雇用。拘束時間が決められている時点で立派な直接雇用と判断できる。仕事を待っていた時間も労働時間と判断して、最低賃金以上の賃金を請求できるし、ガソリン代などの諸経費も会社に請求できる。このケースではほかの仕事仲間と一致団結して会社と交渉し、一定の金銭が支払われた。業務委託は本来、力量的に対等な間柄でなされるべきもの。すべてが労働者にとって不利な契約になっているわけではないが、悪質なものも多いので、先方と条件をしっかり詰めてから契約を結ぶようにしよう。

〇「シフト制」の盲点

労働日や労働時間を1週間ごとに決める、いわゆる「シフト制」の形態も最近は増えてきた。この手の求人には、「自分に合った働き方」「自由な時間に働ける」といった魅力的な言葉が添えられていることが多いが、十分気をつけたい。

確かに、働く側からすれば働きたい時間に働けるというメリットを感じるだろう。しかし雇う側からすれば、労働条件を曖昧にしたまま人を雇えるわけで、「生かすも殺すも会社次第」の状態を生み出せてしまう。もし希望した時間がいっさい受け入れられず、1週間シフトがゼロになったら無収入だし、逆にすべてのシフトに入れられたら過重労働にもなりかねない。本来、よほどのことがない限り会社が従業員をクビにすることはできない。しかしシフト制で極端な労働時間を設定すれば、従業員のほうから「辞めたい」というワードを引き出すことが可能となるだろう。経営が苦しくなって人材を整理したいとき、あるいは会社側に何かと意見するやっかいな従業員を抱えたとき、会社がこのような手段を使うことがあるかもしれない。つまりシフト制は、その人の労働環境、ひいては人生プランをも雇う側に委ねることになってしまいかねない、実は恐ろしい雇用形態なのだ。実際にシフト制で働く場合は条件面には十分注意が必要だ。大事なことは、週ごとや月ごとにどのくらいの労働時間を確保したいかの希望を出し、合意事項を書面化。両者のサインを残しておくこと。交渉は録音しておくことが理想。たとえば「週4日、合計で25時間くらい。1日の労働時間は7時間以内」という条件をベースとして、働きたい希望時間を出し、使用者サイドへシフト作成を委ねる。こうすることで極端にシフトを増やされたり、減らされたりする危機的事態を防ぐことができる。もし守られていなかったら契約違反なので、会社に改善を要請するのが望ましいだろう。

〇派遣社員という働き方はここに注意

派遣社員は派遣会社に雇用され、派遣先会社の指揮命令下で働く雇用形態だ。したがって派遣社員は派遣元と派遣先、大きく2つの会社と関係を保つことになる。派遣先会社の悪知恵としてよくあるのは派遣切り。「派遣会社の社員なら簡単に切れる」と思っている会社は多く、現在進行形で社会問題となっている。これはつまり、派遣先と派遣社員との間に雇用関係はなく、派遣先と派遣元での契約次第で派遣社員の運命が決まっているのが主因だ。「君が勤めている派遣会社との契約が切れたので、もう来なくていい」と言われてしまえば、派遣元から派遣されてきた派遣社員は従うしかない。しかし、派遣社員は労働者派遣法で守られている。もし派遣期間中に派遣切りとなった場合、派遣先会社は派遣元会社に、契約期間の賃金を補填する休業手当を支払うことが決められている。派遣社員の最低限の収入は保証されるので、無収入という最悪の状況は免れることができる。「派遣社員の囲い込み」という違法行為

派遣元会社の悪知恵でよくあるのは、派遣社員の囲い込み。派遣先会社が派遣社員を直接採用することのないよう、先手を打って派遣先会社に「派遣社員を採用してはいけない」といった旨の契約にサインさせていることがある。実はこの行為、法律で禁止されているので違法だ。派遣社員との間で、「派遣期間終了後に派遣先と直接雇用契約を結んではいけない」といった制約を課すこともあるが、これも同じく違法だ。派遣社員は不安定な働き方だ。派遣先から派遣元へ支払われた報酬のうちの一部を給料として受け取れる仕組みになっており、待遇面でも不利な面は否めない。直接契約できるに越したことはないから、派遣先から「派遣期間が終わったら、ぜひうちへ」という誘いがあったなら、嫌でなければ直接雇用契約を結ぶのがいいだろう。法令によって一定以上の権利が守られているものの、派遣社員が弱い立場になりやすいのは間違いない。職場内のハラスメントといったトラブルが起きても、派遣元と派遣先の関係上、我慢を強いられ、うやむやにされやすい。直接雇用されるなら、それに越したことはない。労働条件については、雇う側が良かれと思って設定している場合もあるかもしれない。重要なことはきちんとコミュニケーションを取ること。わからないことや納得できないことは話し合い、こちらの要望をしっかり伝えるようにしよう。


小西秀昭:ライター


東洋経済オンライン / 2023年3月21日 17時0分