2024年11月2日土曜日

「相続税の滞納」なぜ増加?5つの原因と「本当に必要な対策」とは?【専門家が解説】

 国税庁が発表した「令和5年度租税滞納状況の概要」によると、相続税の新規滞納発生額は前年度より増加しており、多くの人が納税に悩まされていることが推測される。相続税を支払うべき方々には、被相続人が残した財産があるはずだ。にもかかわらず、なぜ相続税の滞納は発生するのだろうか。本記事では、来たるべき日に備えた本当に必要な相続税対策や、相続税の滞納によるペナルティなどについて、詳しく解説する。(税理士・岡野相続税理士法人代表社員岡野雄志)

〇相続税の滞納が増えている!2023年度の滞納状況とは

国税庁が発表している「令和5年度租税滞納状況の概要」には、租税の滞納状況や未然防止策、整理促進に向けた取組が掲載されている。まず、相続税に限らず租税全般の滞納状況を見てみると、2023年度(令和5年度)の新規発生滞納額は7997億円で、1992年のピーク時の4割程度に留まっている。しかし、前年の22年度よりも802億円増加している(国税庁が指す滞納とは、納付期限までに納付されず督促状が発送されたものを指す)。今回注目する相続税を見てみると、新規発生滞納額は464億円となっている。前年の22年度は367億円だったことから、こちらも97億円増加しており、前年度より滞納が増えている。21年度は325億円、20年度は236億円と公表されており、増加の一途をたどっている。

本資料には新規に発生した滞納以外に、滞納残高も公表されている。相続税の滞納残高(前年度末時点の滞納および新規発生滞納額の合算)は、23年度は560億円、22年度は527億円とされており、未整理対応が継続している相続税も増加している。なぜ相続税の滞納は発生するのか?

〇主な5つの原因とは

相続税が発生する相続人には、被相続人から引き継げる財産があるにもかかわらず、新規発生滞納額も滞納残高も増加している。なぜ相続税の滞納は発生するのだろうか。主な原因として、以下の5つがある。

1つ目は「現金の不足による納税難」。相続税は原則「現金」で納付する必要があるが、用意できなければ滞納になってしまう。納税のために金融機関から融資を受ける方法も考えられるが、融資を受けるまでには時間を要するため、納税が遅れる可能性もある。

2つ目は「相続財産の中で不動産の割合が高い」。相続財産に有価証券など換価しやすい財産が少なく、換価しにくい不動産が多い場合、高額の相続税が発生しているにもかかわらず、手元に納税資金を用意しにくい。

3つ目は「相続手続きの知識不足」。相続税の納付期限は「被相続人が死亡したことを知った日から10カ月以内」である。しかし、大切な家族が亡くなった後は葬儀や遺品整理などの手続きに追われ、時間があっという間に経過してしまう。知識不足から相続税申告の準備が遅れるケースも少なくない。

4つ目は「相続人間の対立」。遺産分割協議が難航すると、相続税の申告が遅れやすくなる。高額の相続財産がある場合や、被相続人を介護していた相続人とその他の相続人との間で不公平感が生じるケースでは、遺産分割協議がもめやすい。

5つ目は「申告を認識していない」。価値のある相続財産が少ないと思い込んでいたり、名義預金が相続税の対象となることを知らなかったりすると、自身が相続税申告の対象者であることを失念しがちだ。近年はネット銀行やネット証券の財産を見落とすケースもある。また、相続発生から過去7年以内の生前贈与も相続税の対象となるため、注意が必要だ。

〇知らないと怖い!相続税を滞納するとどうなるか

相続税が払えない場合には、一体どのようなペナルティが待ち受けているのだろうか。申告期限である10カ月以内に申告書が提出できないと、無申告加算税が加算されてしまう。無申告加算税は、最大、相続税額300万円を超える部分に対して30%課税される。また、納付期限を超えると「延滞税」も加算される。さらに隠ぺいで申告が遅れたとみなされると、重加算税までプラスされる。重加算税は非常に重いペナルティであり、納付する相続税に対して40%も課税される。相続税申告・納付の遅れや隠匿は、何のメリットももたらさないことがわかるだろう。

〇複数の相続人のうちの誰かが相続税を納付しないとどうなる?

複数の相続人がいる場合、自身が取得した財産に応じた相続税を納めることが一般的だ。基本的に誰か1人が代表して納付するものではない。では、別の相続人が相続税を納付しなかった場合には、どのようなリスクがあるのだろうか。結論から言うと、他の相続人の滞納に関しても、自分が支払うよう税務署から請求される可能性がある。なぜなら、相続税には「連帯納付義務」があり、相続人全員が連携して相続税を支払う必要があるからだ。遺言書で財産をもらう場合も同様であり、相続人が複数いる場合には注意が必要だ。なお、本来支払うべき相続人が税務署から納税猶予や物納を認められた場合は請求されない。「相続財産を使い切ってしまった」「元々仲が悪く連絡しあう関係ではない」といった事情があっても、税務署は考慮してくれない。遺産分割協議や遺言書による財産の分配時に、いつ相続税を納付するのか確認しあっておくことも検討しよう。

納付が遅れそうな相続人がいる場合、代表者が支払うことも可能だが、贈与とみなされる可能性もある。相続税は注意したいポイントが多いため、必ず税理士に相談した上で手続きを進めてほしい。

〇相続税の支払いには現金が必要!来たるべき日に備える方法とは

相続税を納めるためには「現金」と「正しい相続税知識」が必要だ。物納も選択肢として考えられるが、現金での納付が困難であり国が定めた基準に該当していないと、物納申請は却下されてしまう。相続前から物納を目指すことは得策ではないため、来たるべき日に備えて相続税納付の準備を行うことが大切だ。また、納付期限や控除、特例など知っておくべき知識も多いため、相続税の基礎知識を学んでおくことも重要だ。相続について相談する多くの人は、相続開始後に税理士に相談する。相続税申告・納付に直面してから初めて税理士の必要性を感じるのだ。しかし、資産税に強い税理士の多くは生前からの相続税試算を推奨している。将来支払う可能性がある相続税額を把握すると、今やるべき対策がわかるからだ。特に不動産が多い方は、自身の所有する不動産がどのぐらいの評価になるのか、まずは税理士へ相談してほしい。相続税を節税し、将来の負担を少しずつでも減らしていくことも大切だ。オーソドックスな対策方法だが、贈与は効果的である。年間110万円の暦年贈与や相続時精算課税制度、贈与税の配偶者控除の特例など、家族の財産状況や構成にあわせて贈与を進めよう。相続時のトラブルによって相続税申告が遅れないように、遺言書を作成することもおすすめする。遺言書があれば遺産分割協議を行わなくて済むからだ。誰にどの財産を残すか、ご自身の意志を込めることも可能になる。相続時に現金が不足することが予想される場合、生命保険を活用する方法も検討しよう。生命保険には法定相続人1人につき500万円の非課税枠が用意されている。死亡時に保険金を受け取れるため、相続税納付に活用できることも生命保険のメリットと言えるだろう。不動産が多い場合には、贈与の上で収益物件化を目指したり、不要な土地・建物を売却しておくことも大切だ。収益を貯蓄し相続税に充てたり、不動産売却で現金化しておけば納税に備えることもできる。生前の段階から不動産の有効活用を検討しよう。

〇遺産分割協議が終わらない場合は未分割状態で申告できる

遺産分割協議がまとまらない場合であっても、相続税申告は待ったなしだ。調停や係争中であっても、税務署はトラブルを理由に相続税申告を待ってはくれない。このようなケースでは遺産分割の内容が決まっていないため、法定相続分で相続財産を按分して、申告・納付を行うことできる。トラブルの渦中であっても、税理士・弁護士と連携しながら、期限内の申告を進めてほしい。遺産分割が正式に決定したら、4カ月以内に更正の請求をすればよい。本記事では、相続税の滞納について、国税庁の最新資料を参考に滞納の発生理由や対策方法について詳しく解説した。相続税の納付には現金が必要であり、生前から準備を進めておくことが望ましい。納付のために、大切な不動産や株式を売却することを避けたい人もいるだろう。まずは生前から相続税の試算を行い、どのように納税資金を用意するのか家族で計画を立てよう。



ダイヤモンド・オンライン


定年退職を機に息子の「扶養」に入りたいです。「扶養に入るための条件」はなんですか? メリット・デメリットも教えてください

 〇税法上の扶養親族の条件

納税者である子どもに所得税法上の控除対象扶養親族となる親がいる場合には、扶養する子どもは一定の金額の所得控除が受けられ、所得税・住民税の節税ができます。控除額は、扶養親族の年齢、同居の有無等により決まります。たとえば、控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の方の控除額は、同居の場合は58万円(住民税45万円)、同居以外は48万円(住民税38万円)です。70歳未満の親の控除額は38万円(住民税は33万円)です。たとえば、所得税率20%の子どもが70歳以上の同居している親を扶養する場合の節税額を計算してみましょう。所得控除額は58万円なので、節税額は58万円×20%=11万6000円です。また、住民税に関しても、控除額45万円×10%=4万5000円の節税ができます。

扶養親族となる条件は、その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること

(2) 納税者と生計を一にしていること*

(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること

給与のみの場合は給与収入が103万円以下、年金収入のみなら65歳未満は108万円以下、65歳以上なら158万円以下であれば扶養控除を利用できます。

(4) 青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

親に事業の手伝いなどをしてもらう場合は気を付けてください。

(出典:国税庁「No.1180 扶養控除」)

*「生計を一にしていること」

同居の場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。別居の場合は、余暇には起居をともにすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。銀行振込の控えなどを保存しておきましょう。

〇健康保険上の被扶養者の条件

子どもが会社員等であれば、子どもの健康保険の被扶養者になることによって、親は健康保険料を負担せずに保険給付を受けることができます。子ども(被保険者)の健康保険料負担も変わりません。被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)があり、被保険者によって主として生計を維持されていること、および次の収入要件と同一世帯の条件の両方を満たす場合です。収入要件は、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ、(1) 同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満、(2) 別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であることが条件です。

被扶養者が、配偶者、子、孫および兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属の場合は、被保険者と同居している必要はありませんが、これ以外の3親等内の親族や内縁関係の配偶者の父母および子は同居している必要があります。なお、75歳になると後期高齢者医療制度に加入しますので、健康保険の被扶養者から外れますので留意しましょう。

〇メリット・デメリット

親が子どもの扶養に入ることにより、子どもの税金負担が減る、75歳未満の親の健康保険料の負担をなくせるといったメリットがあります。一方、高額療養費の上限額が高くなるので親の医療費の自己負担が増える、介護保険料が世帯収入に基づいて計算されるため親の介護保険料の負担が増える、介護サービス利用料の負担が増える、といったデメリットがあります。以上のように、子が親を健康保険の扶養に入れる場合には、このようなデメリットがありますので、税金だけ子どもの扶養に入れるという方法もあるでしょう。

〇出典

国税庁No.1180扶養控除

日本年金機構 従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き

執筆者:新美昌也

ファイナンシャル・プランナー