2024年11月27日水曜日

無効になるリスクも…相続放棄前後に“やってはいけないこと”とは?避けるべき行為をしてしまった場合の「3つの対処法」

 「相続放棄」は、故人の財産や負債の引継ぎを辞退する大切な選択肢です。相続を通じて借金等を背負うリスクを避けたいと考える方にとって、この手続きは有力な手段となります。ただし、相続放棄を行うには家庭裁判所での手続きが必要であり、期間や注意点も多く存在します。本記事では、相続放棄の手続きから注意点、避けるべき行為まで詳しく解説します。

〇相続放棄とは何か

相続放棄とは、相続人が故人の財産や負債を一切引き継がないことを選ぶ手続きです。特に、借金が多い場合に検討されます。手続きは、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に、故人の最後の住所を管轄する家庭裁判所で行います。必要な書類(故人の住民票除票等)を提出し、裁判所に受理されることで手続きが完了します。

〇相続放棄前後に“避けるべき行為”

相続放棄を行う前後には、いくつか注意が必要な行為があります。これらを行うと、相続放棄が認められなくなったり、無効となったりすることがあります。

・相続財産の処分

相続放棄を考えている場合、相続財産を処分してはいけません。例えば、実家を解体したり売却したりすると、相続を承認したと見なされ、相続放棄ができなくなります。保存行為(現状維持のための措置)は認められますが、処分行為には慎重を期すべきです。

・預貯金の引き出しや解約

故人の預金に手をつけると、相続放棄ができなくなるリスクがあります。誤って引き出してしまった場合でも、使わなければ処分行為と見なされないこともありますが、元の口座に戻すのが理想です。口座が凍結されている場合は、引き出した現金を他の資金と分けて管理するようにします。

・車や家具などの遺品整理

車や家具は相続財産に含まれるため、売却や廃棄をすると相続を承認したと見なされることがあります。車を処分しなければならない場合は、専門家に相談し、見積もりを取って書類を残すことが大切です。家具についても同様で、安易に処分せず、弁護士に確認し、証拠書類を残すことをおすすめします。

・賃貸契約の解約

故人が賃貸物件に住んでいた場合、相続放棄を検討しているなら、賃貸契約の解約には注意が必要です。契約を解約すると、賃貸物件を借りる権利(賃借権)も財産の一部と見なされ、それを処分したとされて相続放棄が認められなくなる恐れがあります。解約を進める場合は、貸主や管理会社と相談し、後で証拠となる書類をきちんと残しておくことが大切です。

・クレジットカードや携帯電話の解約

故人のクレジットカードや携帯電話の解約も慎重に行うべきです。これらを解約することで、相続財産を処分したと見なされる可能性があります。相続放棄の手続きが完了するまでは、契約に手をつけない方が無難です。

・相続財産の隠匿・消費

相続放棄を行った後でも、故人の財産を隠したり使ったりすると、相続を承認したと見なされ、相続放棄が無効となる恐れがあります(民法921条3号)。相続放棄後は、財産に手をつけないよう注意が必要です。

・財産を隠す、目録に記載しない

相続放棄後に故人の財産を隠す、遺産目録に記載しないなどの行為は、背信行為とみなされます。このような行為が発覚すると、相続放棄の効力が否定され、相続を承認したことになるリスクがあります。隠匿や未記載は法的なペナルティを伴うため慎重に対応することが求められます。

・被相続人の債務支払い

相続放棄を検討している場合、故人の借金を相続財産から支払うのは避けるべきです。借金の支払いが「処分行為」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。支払いが避けられない場合は、自分の資産を使って支払いを行うと良いでしょう。これにより、相続放棄手続きに影響を与えることなく債務を返済できます。

〇遺産分割協議への参加

遺産分割協議に参加すると、相続を承認したと見なされるリスクがあります。協議は基本的に相続を前提に行われるため、相続放棄を考えている場合には参加しない方が無難です。ただし、相続人全員での協議が行われなければ、法的に有効な協議とはなりません。相続放棄を確実に行うには、家庭裁判所での手続きが必要です。

〇3ヵ月の熟慮期間を放置すること

相続手続きでは、相続開始を知ってから3ヵ月以内に単純承認、限定承認、または相続放棄を選択しなければなりません。何も手続きを行わないと、原則として単純承認が適用されます。熟慮期間を過ぎた場合でも、弁護士に相談すれば救済措置があることもあります。遅れた場合は、早めに専門家に相談することが重要です。

〇相続放棄後にも必要な「財産管理」

相続放棄をしても、すぐにすべての財産管理から解放されるわけではありません。相続放棄後でも、占有している財産については「保存義務」が生じます。これは、相続財産の価値を保護するために必要な義務です。例えば、空き家や土地、車などを占有している場合、その財産を管理し、適切に保存する義務が続きます。2023年の民法改正により、相続放棄後に占有している相続財産については、保存義務が引き続き適用されることが明確になりました。この保存義務は、相続財産清算人が正式に選任されるまで続きます。すべての相続人が相続放棄をした場合や、誰も財産を占有していない場合には、家庭裁判所により相続財産清算人が選任され、財産の管理が移行します。

〇保存義務の重要性

保存義務を怠ると、損害賠償請求やトラブル、ペナルティを受けるリスクがあります。特に不動産や車などは劣化や事故のリスクがあるため、注意が必要です。相続財産の保存義務は、相続放棄後でも他の相続人が正式に財産を引き継ぐまでは続くため、放置しないようにしましょう。

〇相続放棄後でも“例外的に許される”財産処分

相続放棄後でも、以下のような場合は財産の処分が認められています。

・保存行為

「保存行為」とは、相続財産の価値を維持するために必要な措置を指し、民法921条1号により財産の処分には該当しません。例えば、台風で家屋が被害を受けた際の応急修理、借金返済期限の督促、有価証券や貴金属の保管、公共料金や税金の支払いなどが保存行為に該当します。相続放棄後も財産の保存義務があれば、これらの行為を行う必要があります。保存行為と財産処分を誤ると、法定単純承認が成立する恐れがあるため、判断に迷う場合は専門家に相談することをお勧めします。

・短期賃貸借

相続財産に関して、一定期間を超えない賃貸借契約は財産処分に該当しません。具体的には、山林の賃貸借は10年、その他の土地は5年、建物は3年、動産は6ヵ月以内であれば問題ありません。しかし、相続放棄後はこれらの賃貸借契約を結ぶ必要は基本的にありません。リスクを避けるため、相続財産には手をつけないことが推奨されます。

・葬儀費用などの社会通念上相当な支出

葬儀費用は故人を見送るために必要な支出であり、一般的な範囲内であれば相続財産の処分には該当しません。ただし、その範囲は故人の社会的な立場によって異なるため、支出の妥当性には注意が必要です。場合によっては、債権者が葬儀費用の過剰支出を問題視することもあります。相続放棄を考えている場合、葬儀費用は自分の資金で賄うのが無難です。

・経済的価値のない遺品の形見分け

経済的に無価値な遺品については、形見分けをしても相続財産の処分とは見なされません。しかし、自動車や高価な時計など価値がある遺品については、形見分けを行うと財産の「処分」と見なされ、相続を承認したと判断されるリスクがあります。したがって、価値のある遺品については慎重に扱う必要があります。

〇相続放棄後にやってはいけないことをしてしまった場合の対処法

相続放棄後に誤って財産の処分を行い、法定単純承認が成立した場合、相続放棄が無効になる可能性があります。その場合でも、取るべき対策があります。

対処法1:遺産分割協議での対応

相続放棄後に相続財産に関わる行為をしてしまった場合、まず遺産分割協議を検討します。遺産分割協議書を作成し、他の相続人と「財産を相続しない」合意を得ることで、実質的には相続を避けることが可能です。しかし、故人に多額の債務がある場合、他の相続人の同意を得るのは難しく、慎重な交渉が必要です。専門家のサポートを受けながら進めることをお勧めします。

対処法2:債務整理の検討

誤って借金を相続してしまった場合、債務整理を検討することが有効です。代表的な方法として、任意整理、個人再生、自己破産、特定調停があります。これらを利用することで、借金の返済負担を軽減できますが、信用情報に影響を与えるデメリットもあるため、慎重に選択しましょう。専門家の相談を受け、最適な方法を選ぶことが重要です。

対処法3:専門家への早期相談

相続放棄を検討している場合、誤った行動によって法定単純承認が成立するリスクがあります。法定単純承認が成立すると、その後に相続放棄はできません。しかし、相続問題に詳しい弁護士に早めに相談すれば、決定を覆す可能性があります。

実際に、3ヵ月を超えた後に相続放棄が認められた事例もあります。専門家の知識を活用し、適切な対応を取ることが重要です。

〇相続放棄後に受け取れるもの・受け取れないもの

相続放棄を行った場合、受け取れるものと受け取れないものがあります。

・受け取れるもの

死亡保険金(受取人が指定されている場合):受取人に指定されていれば、死亡保険金は相続財産とは見なされず、受け取ることができます。

未支給年金:故人が死亡時まで受け取っていなかった年金は相続財産に含まれず、相続放棄をしても受け取れます。未支給年金は、配偶者や子など、一定の条件を満たす家族が受け取ることができます。

祭祀財産(仏壇やお墓など):相続放棄をしても、祭祀財産は引き継ぐことができます。

・受け取れないもの

相続財産(不動産、預貯金、株式など):相続放棄をした場合、これらの財産を受け取ることはできません。

医療費や未払い給与などの還付金:これらは相続財産に含まれるため、相続放棄後には受け取ることができません。

相続放棄を考えている場合、これらの財産に手をつけないよう注意が必要です。特に、故人が生前に受け取るべきだったお金に関与すると、相続放棄が無効になり、相続を承認したとみなされることがあります。

・相続放棄後でも「免除されない義務」

相続放棄をすると、法的には相続人としての立場を失いますが、全ての責任や義務が免除されるわけではありません。以下の義務は、相続放棄後も残る場合があります。

・相続財産の管理と引継ぎ

相続放棄をすると、相続財産を受け取る権利はなくなりますが、相続財産を保持している場合、その管理義務が生じます。例えば、故人の通帳や重要書類を保管している場合、他の相続人や相続財産管理人に引き渡すまで、その財産を適切に管理する責任があります。積極的な行動は求められませんが、安全に保管し、引き渡しを行うことが求められます。

・連帯債務や連帯保証債務

相続放棄をしても、連帯債務や連帯保証に関する義務は免除されません。被相続人と一緒に連帯債務者や連帯保証人になっていた場合、相続を放棄しても自分が負っている債務の責任は残ります。したがって、相続放棄をしても連帯債務や保証から解放されるわけではありません。

・相続放棄に関する専門家への相談

相続放棄を進める際、法律的な知識が必要です。誤って法定単純承認に該当する行為をしたり、手続きを期限内に進めなかったりすると、相続放棄が無効になることもあります。そのため、相続放棄を確実に進めるためには、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

・手続きのスムーズ化

相続放棄の手続きでは、戸籍謄本など多くの書類が必要ですが、専門家に依頼すれば、煩雑な手続きや書類収集を任せることができます。また、相続放棄申述書の作成もミスなく進められます。

・単純承認や期限超過の防止

相続放棄の手続きには、相続開始を知った日から3ヵ月以内に申立てを行う必要があります。期限を過ぎると、相続放棄が認められなくなるため、専門家に依頼することで、期限内に確実に手続きを進めることができます。

・債権者対応のサポート

相続放棄の手続き中に、債権者から故人の借金の返済を求められることがあります。弁護士や司法書士に相談すれば、債権者とのやり取りもサポートしてもらえ、手続きを安心して進めることができます。相続放棄を確実に進めるためには、専門家によるサポートが重要です。必要な手続きを確実に行い、リスクを避けるためにも、早めに相談することをお勧めします。


2024年11月14日木曜日

あなたはどのタイプ? NISAを始めたいけれど「始められない理由」5つ

 「NISA」が話題だけれど、なかなか始められない…という方はいませんか? 筆者は、日々そのような方にたくさんお会いしていて、決して始められないのは少数派ではないと感じます。そんな、NISAを始めたいけれど始められない人は、大まかに「5つのタイプ」に分かれると感じます。今回はそれらのタイプと、始めるためのアドバイスについてお伝えしたいと思います。

タイプ1.「お金が減ることが怖い」

「NISAって投資ですよね? 投資って、お金が減りますよね?」と、投資をしてお金が減ることが怖いタイプです。投資が初めてであれば、誰でもそう思うのは当然でしょう。これまでお金をすべて元本保証の預貯金に預けていれば、最初から金利がわかっていますし、お金が減ることはありませんよね。一方で、NISAでは、株式や投資信託を買うことになり、いずれも元本保証はありません。増えたり減ったりする可能性があるのは確かです。しかし、お金をしっかり増やそうと思ったら、増える可能性だけでなく、減るリスクも同時に受け入れなければなりません。今の超低金利時代で、元本保証で、大きく増える金融商品は存在しないからです。「でも、お金が減るのは怖いから、投資はやめておこうかな」と思うのは、ちょっと待ってください。最近の物価上昇も、実は大きなリスクの一つなのです。自分の資産を、すべて低金利の預貯金だけに預けておくと、10年、20年たって物価がさらに上昇した場合、資産が実質的に目減りしてしまいかねません。そのため、投資をして減るリスクを受け入れながら、増やすことを目指すことも、物価上昇中の今の時代では大切なことなのです。まずは少額から、毎月の積み立てで投資を始めてみてはいかがでしょうか。増えたり減ったりしてお金を育てることを経験してみることで、投資をすることの大切さも実感できるかもしれません。

タイプ2.「投資するほどお金がない」

「投資をする人って、お金持ちですよね。投資をしたいけれど、お金が全然なくて…」という声もよく聞きます。

実際にお金持ちで投資をしている人は多いですが、一般的な人でも、投資がしやすい仕組みができて、実はお金持ちかどうかは、あまり関係ない時代となりました。というのも、幅広く投資先を分散できる「投資信託」なら、月100円や1000円などの小さな金額でも、気軽に投資ができるようになったからです。月100円くらいであれば、どんな方でも捻出できるのではないでしょうか。これを機に、自分の支出を見直してみて、無駄があればカットしましょう。意外と、貯蓄や投資にまわすお金が捻出できるかもしれません。

タイプ3.「忙しくて申し込みに行けない」

「投資を始めるのは、手間がかかって大変。金融機関の窓口があいている平日の昼間に、申し込みになんていけません」という声も聞きます。実はNISAの口座開設は、ネット証券やネット銀行なら、PCやスマホで申し込みが完了しす。わざわざ店舗に行かなくても、NISAが始められるのです。以前は、金融機関の口座開設には長い時間がかかりましたが、最近は、ネット証券を中心に、かなりスピーディーになっています。昔の経験者からは「時間がかかるよ~」と言われるかもしれませんが、意外とそうでもないのです。ネット証券などの口座開設ページを確認してみてください。

タイプ4.「金融機関が決められない」

「NISA口座を作る金融機関は、どこがいいのだろう…」と、何か月も何年も迷っていて、決められない方もいます。NISAは、ネット証券、店舗型の証券会社、店舗型の銀行、ネット銀行で始められます。それゆえ、迷ってしまうかもしれません。一つ注意したいのが、株式を買いたい場合は、基本的には証券会社(ネット証券、店舗型証券会社)のみということ。銀行でNISA口座を開設した場合は、株式は買えず、投資信託の購入のみとなります。ちなみに、NISAは一人1口座で、一度口座開設をして商品を買うと、その年は違う金融機関に変更ができません。年1回変更は可能とはいえ、毎年変更するのはなかなか面倒。ある程度の期間はお付き合いすることを考えて、口座を開けるとよいですね。そのため、いつか株式を買いたいと思っていたら、ネット証券か店舗型証券会社でNISA口座を開くのがよいでしょう。身近な人と同じ会社の口座で開くのも一つの選択肢だと思います。

タイプ5.「そもそも、NISAが複雑すぎてよくわからない」

上記のタイプに加えて、よく聞かれるのが「NISAという言葉は散々聞いてきたけれど、結局NISAって何なのかがよくわからない」という声です。「NISA」とは、「少額投資非課税制度」の略。投資をして、利益が出たら通常は約20%の税金がかかりますが、それがかからない(=非課税)制度です。10万円の利益が出た場合、一般的には2万円ほどの税金がさしひかれて利益は8万円になりますが、NISA口座で買えば、この税金が差し引かれず、10万円の利益をそのまま受け取れるのが大きなメリットです。NISAでは一人あたり、年360万円まで投資ができる枠があります。「少額投資非課税制度といっても、360万円なんて“少額”ではない…」と感じてしまいそうですが、何億もの資産を投資している人も世の中にはたくさんいて、その金額に比べたら“少額”というわけですね。ちなみに、NISAには「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の2枠が自動的についてきます。「成長投資枠」は株式や投資信託などいろいろな商品を買える枠で、年240万円が上限、「つみたて投資枠」は金融庁が事前にOKを出した投資信託だけが買える枠で、年120万円が上限です(“枠”という投資上限額が決められているだけで、お金は自分で出します)。その枠を使い切る必要はなく、例えば月100円×12か月=年間1200円の投資でもOKです。NISAのどちらの枠を使って何を買ったらよいかと迷う方も多いので、まずは「つみたて投資枠」にある投資信託を積み立てていくのが、選びやすくてスムーズかと思います。以上、NISAを始めたいけれど始めたい人によくある理由について5つ紹介しました。さまざまな投資を経験すると、利益が出たときに約20%の税金がかからないNISAの魅力を感じるでしょう。ただ、あくまでも投資ですので、減る場合もあることを念頭において、余裕資金で少額から始めるようにしましょう。


(西山美紀)


MONEYPLUS / 2024年11月5日 7時30分


2024年11月2日土曜日

「相続税の滞納」なぜ増加?5つの原因と「本当に必要な対策」とは?【専門家が解説】

 国税庁が発表した「令和5年度租税滞納状況の概要」によると、相続税の新規滞納発生額は前年度より増加しており、多くの人が納税に悩まされていることが推測される。相続税を支払うべき方々には、被相続人が残した財産があるはずだ。にもかかわらず、なぜ相続税の滞納は発生するのだろうか。本記事では、来たるべき日に備えた本当に必要な相続税対策や、相続税の滞納によるペナルティなどについて、詳しく解説する。(税理士・岡野相続税理士法人代表社員岡野雄志)

〇相続税の滞納が増えている!2023年度の滞納状況とは

国税庁が発表している「令和5年度租税滞納状況の概要」には、租税の滞納状況や未然防止策、整理促進に向けた取組が掲載されている。まず、相続税に限らず租税全般の滞納状況を見てみると、2023年度(令和5年度)の新規発生滞納額は7997億円で、1992年のピーク時の4割程度に留まっている。しかし、前年の22年度よりも802億円増加している(国税庁が指す滞納とは、納付期限までに納付されず督促状が発送されたものを指す)。今回注目する相続税を見てみると、新規発生滞納額は464億円となっている。前年の22年度は367億円だったことから、こちらも97億円増加しており、前年度より滞納が増えている。21年度は325億円、20年度は236億円と公表されており、増加の一途をたどっている。

本資料には新規に発生した滞納以外に、滞納残高も公表されている。相続税の滞納残高(前年度末時点の滞納および新規発生滞納額の合算)は、23年度は560億円、22年度は527億円とされており、未整理対応が継続している相続税も増加している。なぜ相続税の滞納は発生するのか?

〇主な5つの原因とは

相続税が発生する相続人には、被相続人から引き継げる財産があるにもかかわらず、新規発生滞納額も滞納残高も増加している。なぜ相続税の滞納は発生するのだろうか。主な原因として、以下の5つがある。

1つ目は「現金の不足による納税難」。相続税は原則「現金」で納付する必要があるが、用意できなければ滞納になってしまう。納税のために金融機関から融資を受ける方法も考えられるが、融資を受けるまでには時間を要するため、納税が遅れる可能性もある。

2つ目は「相続財産の中で不動産の割合が高い」。相続財産に有価証券など換価しやすい財産が少なく、換価しにくい不動産が多い場合、高額の相続税が発生しているにもかかわらず、手元に納税資金を用意しにくい。

3つ目は「相続手続きの知識不足」。相続税の納付期限は「被相続人が死亡したことを知った日から10カ月以内」である。しかし、大切な家族が亡くなった後は葬儀や遺品整理などの手続きに追われ、時間があっという間に経過してしまう。知識不足から相続税申告の準備が遅れるケースも少なくない。

4つ目は「相続人間の対立」。遺産分割協議が難航すると、相続税の申告が遅れやすくなる。高額の相続財産がある場合や、被相続人を介護していた相続人とその他の相続人との間で不公平感が生じるケースでは、遺産分割協議がもめやすい。

5つ目は「申告を認識していない」。価値のある相続財産が少ないと思い込んでいたり、名義預金が相続税の対象となることを知らなかったりすると、自身が相続税申告の対象者であることを失念しがちだ。近年はネット銀行やネット証券の財産を見落とすケースもある。また、相続発生から過去7年以内の生前贈与も相続税の対象となるため、注意が必要だ。

〇知らないと怖い!相続税を滞納するとどうなるか

相続税が払えない場合には、一体どのようなペナルティが待ち受けているのだろうか。申告期限である10カ月以内に申告書が提出できないと、無申告加算税が加算されてしまう。無申告加算税は、最大、相続税額300万円を超える部分に対して30%課税される。また、納付期限を超えると「延滞税」も加算される。さらに隠ぺいで申告が遅れたとみなされると、重加算税までプラスされる。重加算税は非常に重いペナルティであり、納付する相続税に対して40%も課税される。相続税申告・納付の遅れや隠匿は、何のメリットももたらさないことがわかるだろう。

〇複数の相続人のうちの誰かが相続税を納付しないとどうなる?

複数の相続人がいる場合、自身が取得した財産に応じた相続税を納めることが一般的だ。基本的に誰か1人が代表して納付するものではない。では、別の相続人が相続税を納付しなかった場合には、どのようなリスクがあるのだろうか。結論から言うと、他の相続人の滞納に関しても、自分が支払うよう税務署から請求される可能性がある。なぜなら、相続税には「連帯納付義務」があり、相続人全員が連携して相続税を支払う必要があるからだ。遺言書で財産をもらう場合も同様であり、相続人が複数いる場合には注意が必要だ。なお、本来支払うべき相続人が税務署から納税猶予や物納を認められた場合は請求されない。「相続財産を使い切ってしまった」「元々仲が悪く連絡しあう関係ではない」といった事情があっても、税務署は考慮してくれない。遺産分割協議や遺言書による財産の分配時に、いつ相続税を納付するのか確認しあっておくことも検討しよう。

納付が遅れそうな相続人がいる場合、代表者が支払うことも可能だが、贈与とみなされる可能性もある。相続税は注意したいポイントが多いため、必ず税理士に相談した上で手続きを進めてほしい。

〇相続税の支払いには現金が必要!来たるべき日に備える方法とは

相続税を納めるためには「現金」と「正しい相続税知識」が必要だ。物納も選択肢として考えられるが、現金での納付が困難であり国が定めた基準に該当していないと、物納申請は却下されてしまう。相続前から物納を目指すことは得策ではないため、来たるべき日に備えて相続税納付の準備を行うことが大切だ。また、納付期限や控除、特例など知っておくべき知識も多いため、相続税の基礎知識を学んでおくことも重要だ。相続について相談する多くの人は、相続開始後に税理士に相談する。相続税申告・納付に直面してから初めて税理士の必要性を感じるのだ。しかし、資産税に強い税理士の多くは生前からの相続税試算を推奨している。将来支払う可能性がある相続税額を把握すると、今やるべき対策がわかるからだ。特に不動産が多い方は、自身の所有する不動産がどのぐらいの評価になるのか、まずは税理士へ相談してほしい。相続税を節税し、将来の負担を少しずつでも減らしていくことも大切だ。オーソドックスな対策方法だが、贈与は効果的である。年間110万円の暦年贈与や相続時精算課税制度、贈与税の配偶者控除の特例など、家族の財産状況や構成にあわせて贈与を進めよう。相続時のトラブルによって相続税申告が遅れないように、遺言書を作成することもおすすめする。遺言書があれば遺産分割協議を行わなくて済むからだ。誰にどの財産を残すか、ご自身の意志を込めることも可能になる。相続時に現金が不足することが予想される場合、生命保険を活用する方法も検討しよう。生命保険には法定相続人1人につき500万円の非課税枠が用意されている。死亡時に保険金を受け取れるため、相続税納付に活用できることも生命保険のメリットと言えるだろう。不動産が多い場合には、贈与の上で収益物件化を目指したり、不要な土地・建物を売却しておくことも大切だ。収益を貯蓄し相続税に充てたり、不動産売却で現金化しておけば納税に備えることもできる。生前の段階から不動産の有効活用を検討しよう。

〇遺産分割協議が終わらない場合は未分割状態で申告できる

遺産分割協議がまとまらない場合であっても、相続税申告は待ったなしだ。調停や係争中であっても、税務署はトラブルを理由に相続税申告を待ってはくれない。このようなケースでは遺産分割の内容が決まっていないため、法定相続分で相続財産を按分して、申告・納付を行うことできる。トラブルの渦中であっても、税理士・弁護士と連携しながら、期限内の申告を進めてほしい。遺産分割が正式に決定したら、4カ月以内に更正の請求をすればよい。本記事では、相続税の滞納について、国税庁の最新資料を参考に滞納の発生理由や対策方法について詳しく解説した。相続税の納付には現金が必要であり、生前から準備を進めておくことが望ましい。納付のために、大切な不動産や株式を売却することを避けたい人もいるだろう。まずは生前から相続税の試算を行い、どのように納税資金を用意するのか家族で計画を立てよう。



ダイヤモンド・オンライン


定年退職を機に息子の「扶養」に入りたいです。「扶養に入るための条件」はなんですか? メリット・デメリットも教えてください

 〇税法上の扶養親族の条件

納税者である子どもに所得税法上の控除対象扶養親族となる親がいる場合には、扶養する子どもは一定の金額の所得控除が受けられ、所得税・住民税の節税ができます。控除額は、扶養親族の年齢、同居の有無等により決まります。たとえば、控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の方の控除額は、同居の場合は58万円(住民税45万円)、同居以外は48万円(住民税38万円)です。70歳未満の親の控除額は38万円(住民税は33万円)です。たとえば、所得税率20%の子どもが70歳以上の同居している親を扶養する場合の節税額を計算してみましょう。所得控除額は58万円なので、節税額は58万円×20%=11万6000円です。また、住民税に関しても、控除額45万円×10%=4万5000円の節税ができます。

扶養親族となる条件は、その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること

(2) 納税者と生計を一にしていること*

(3) 年間の合計所得金額が48万円以下であること

給与のみの場合は給与収入が103万円以下、年金収入のみなら65歳未満は108万円以下、65歳以上なら158万円以下であれば扶養控除を利用できます。

(4) 青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

親に事業の手伝いなどをしてもらう場合は気を付けてください。

(出典:国税庁「No.1180 扶養控除」)

*「生計を一にしていること」

同居の場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。別居の場合は、余暇には起居をともにすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。銀行振込の控えなどを保存しておきましょう。

〇健康保険上の被扶養者の条件

子どもが会社員等であれば、子どもの健康保険の被扶養者になることによって、親は健康保険料を負担せずに保険給付を受けることができます。子ども(被保険者)の健康保険料負担も変わりません。被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)があり、被保険者によって主として生計を維持されていること、および次の収入要件と同一世帯の条件の両方を満たす場合です。収入要件は、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ、(1) 同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満、(2) 別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であることが条件です。

被扶養者が、配偶者、子、孫および兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属の場合は、被保険者と同居している必要はありませんが、これ以外の3親等内の親族や内縁関係の配偶者の父母および子は同居している必要があります。なお、75歳になると後期高齢者医療制度に加入しますので、健康保険の被扶養者から外れますので留意しましょう。

〇メリット・デメリット

親が子どもの扶養に入ることにより、子どもの税金負担が減る、75歳未満の親の健康保険料の負担をなくせるといったメリットがあります。一方、高額療養費の上限額が高くなるので親の医療費の自己負担が増える、介護保険料が世帯収入に基づいて計算されるため親の介護保険料の負担が増える、介護サービス利用料の負担が増える、といったデメリットがあります。以上のように、子が親を健康保険の扶養に入れる場合には、このようなデメリットがありますので、税金だけ子どもの扶養に入れるという方法もあるでしょう。

〇出典

国税庁No.1180扶養控除

日本年金機構 従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き

執筆者:新美昌也

ファイナンシャル・プランナー