2023年4月7日金曜日

「1千万円ずつアルミホイルで包み押し入れに」…後絶たない相続税申告漏れ、目立つ高額化

 遺産にかかる相続税の申告漏れが後を絶たない。昨年6月までの1年間に国税当局が調査した対象のうち5000件超で見つかり、計約2230億円の申告漏れを指摘した。1件当たりの額は過去10年で最高で、富裕層などの大口事案が相次いだとみられる。1億円以上の高額な相続財産の無申告や遺産隠しも目立ち、国税当局は海外口座などの情報を収集して課税逃れの対策を強化している(牛島康太)。

叔母の遺産のうち、約1億5000万円を隠して過少申告したとして、福岡県内の会社役員女性(70歳代)ら相続人3人は2021年、福岡国税局から重加算税を含む約8000万円を追徴課税された。関係者によると、子どもがいない叔母と女性は12年、判断能力が低下した場合に財産管理などを任せる「任意後見契約」を結び、13~14年、叔母名義の複数の口座から約5000万円ずつ計3回出金した。1000万円ずつアルミホイルで包み、叔母宅の押し入れの布団の下や、本棚の奥に隠していたという。叔母が19年に亡くなり、女性ら3人は相続財産のうち、隠した約1億5000万円を除いて申告。税務調査で現金の行方について説明を求められ、女性は隠し場所を打ち明けたという。国税局は、悪質な仮装・隠蔽(いんぺい)行為があったと判断した。

〇「黙っていれば…」

「黙っていればわからないと思った」。福岡国税局から昨年、相続財産約1億2000万円の無申告を指摘された福岡県の会社員男性(70歳代)は調査に対してそう語ったという。母親が19年に死去したが、男性ら相続人は相続税を申告しなかった。21年に行った税務署からの問い合わせにも、申告すべき相続税がないように装う回答書を出した。しかし、調査で男性は18~19年、母親名義の預金口座から50万~500万円を約70回にわたって出金し、現金はすべて男性名義の預金口座に入金していたことが判明した。男性ら相続人2人は重加算税を含む約1400万円を追徴課税された。

国税庁によると、昨年6月までの1年間の大口、悪質な事案を対象にした調査で申告漏れは5532件で、前年比1・2倍の2230億円。1件当たりの申告漏れ額は過去10年で最高の3530万円だった。福岡国税局管内(福岡、佐賀、長崎各県)は197件で同1・3倍の75億円。1件当たりの追徴税額は過去10年で最高の884万円に上った。新型コロナウイルス禍で調査件数を厳選する中、富裕層などの大口事案が確認されたことも影響している可能性があるという。

〇口座情報、各国で交換

国際的な脱税や租税回避に対応するため、各国の金融口座情報が交換される「CRS(共通報告基準)」に基づき、当局が申告漏れを指摘したケースもある。18年に死去した男性の妻や子の相続人5人は、大阪国税局から計約10億6000万円の申告漏れを指摘された。追徴税額は、重加算税を含め約6億円。海外の金融機関にあった預金や海外の不動産などを申告していなかった。同局はCRS情報でアジアの金融機関に多額の預金がある男性名義の口座を把握。海外資産の申告がなかったため、調査に着手したところ、男性はこの国にマンションを持ち、口座に家賃収入が入っていた。妻らは「悪いことだと知りつつ、税金が安くなったらと思って海外財産を申告しなかった」と話したという。国税当局は近年、こうした海外の口座情報のほか、亡くなった本人や相続人ら関係者のSNSなどにも監視の目を光らせている。

◆相続税=土地や預貯金などを一定額以上相続した場合にかかる。遺産総額から基礎控除などを差し引いた額に税率をかけて計算する。遺産が多いほど税率は段階的に高くなり、最高税率は55%。配偶者と子ども2人が相続する場合、遺産総額が4800万円を超えると課税対象となりうる。


読売新聞2023/4/4(火) 5:03配信