2022年8月21日日曜日

家族が死亡したとき、銀行口座はどうすればいい?

 ○家族が亡くなった後の、預貯金や有価証券などの相続手続きのポイント

相続が発生し被相続人に金融資産つまり、預貯金や株などの有価証券がある場合、その金融資産を相続人が引き継ぐための相続手続きが必要になります。思いのほか手間や費用がかかるため、全体の流れを把握しておくことが大切です。

○まずは相続手続きの全体の流れを知っておこう

被相続人名義の金融資産を相続人が引き継ぐ流れは以下のようになります。

・被相続人が取引をしていた金融機関を確認する

・戸籍謄本や印鑑証明書を取得する

・各金融機関に問い合わせ、残高を確認する

・残高が確認できたら引き継ぐ(名義変更や解約する)ための必要書類を準備する

・必要書類が整ったら各金融機関に相続手続きを依頼する

・相続手続きが完了したか確認する

1. 金融機関の確認

最初に行うのが金融機関の確認です。通帳、カード、証書、報告書、配当通知などから被相続人が取引していたと思われる銀行や証券会社などの金融機関をリストにしましょう。金融機関は相続が発生したことが分かると全ての取引を凍結してしまうため、まだ連絡はせずに先に通帳の記帳などをしておくとよいでしょう。

※民法改正により、凍結した預貯金の口座であっても当面の生活費が引き出せるようになりました。

2. 戸籍謄本、印鑑証明書の取得

金融機関への残高の確認や相続手続きには、戸籍謄本や印鑑証明書が必要になります。なお、ほとんどの金融機関で、戸籍謄本や印鑑証明書は提示後に返却を依頼すれば戻してもらえます。金融機関の数と同じ数の戸籍謄本や印鑑証明書を取得すると費用がかさみ、最終的には余ってしまいますので、1通ずつ用意すればよいと思います。

また法務局の法定相続情報証明制度を利用すれば、その後の手続きもスムーズですのでお勧めです。

3. 各金融機関への問合せ

取引先が分かったら、各金融機関に問い合わせ(この時点で口座が凍結されます)、残高の確認(相続発生日時点の残高証明書の発行)を依頼します。念のため「他の支店にも取引がないか」「全て(預貯金、出資金、有価証券など)の残高」の確認を依頼しましょう。

依頼後1~2週間程度で証明書が発行されます。原則として依頼時に必要なものは以下の通りです。

・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本

・依頼者が相続人であることが分かる戸籍謄本

・依頼者の身分証明書、実印、印鑑証明書(発行から3カ月以内などの条件あり)

・残高証明書発行手数料(各金融機関によって異なります)

・各金融機関の所定の依頼書に自署・実印(経過利息や解約金額の証明も依頼するとよい)

4. 相続手続き書類の準備

全ての残高が確認できたら相続手続きを行うための準備をしましょう。預貯金は名義変更か解約のどちらも可能ですが、有価証券は原則は相続人の口座に移し替える(移管)のみとなりますので、相続人の口座がない場合は口座開設が必要です。

ゆうちょ銀行は他の銀行には振り込めないため、相続人の口座がない場合は口座開設をするか、払戻証書を受け取って窓口で現金化することになります。原則として、相続手続きに必要なものは以下の通りです。

・被相続人の出生から死亡までが確認できる戸籍謄本

・相続人全員の戸籍謄本

・相続人全員の印鑑証明書(発行から3カ月以内などの条件あり)

・各金融機関の所定の依頼書を入手し相続人全員の自署

・実印(遺産分割協議書があると取得者のみの自署・実印の場合あり)

・遺産分割協議書(ある場合)

・被相続人の通帳、カード、証書など

・マイナンバー(通知カード、個人番号カードなど)の写しを要求されることもあります

5. 相続手続きの依頼

相続手続きに必要な書類などが全て整ったら、各金融機関に相続手続きの依頼をします。依頼時は念のため依頼者の身分証明書と実印も持参しましょう。なお各金融機関の窓口での手続き時間は30分~1時間程度かかるため、複数の金融機関を回る場合は1日がかりになることもあります。時間に余裕がある平日に行うことをお勧めします。また事前に金融機関へ訪問の予約などの連絡をしておくとスムーズです。

6. 相続手続き完了の確認

概ね1~2週間程度で相続手続きが完了します。各金融機関での手続きが完了したか、相続人(受取人)の通帳を記帳するなどで確認しましょう。振り込まれていれば無事完了ということになります。金融機関の窓口での一般的な相続手続きの流れについて説明しました。郵送で行う場合や遺言がある場合などは、流れや必要な書類などが少し異なるので、各金融機関に確認してみましょう。金融機関の相続手続きは、数が多いととても大変です。生前に口座数を整理しておいたり、取引機関や支店名をリストにしておくことも、大事な相続対策の一つです。

文:小野 修(ファイナンシャルプランナー)

税理士法人レガシィ所属のAFP。年に100件超の相続相談・対策を担当。資産家やトラブル事案を得意とする。相続が発生した人だけでなく、将来の相続が心配な人の生前対策、相続後の節税プランニングなども行っている。

(文:小野 修(ファイナンシャルプランナー))

オールアバウト / 2022年8月20日 18時30分


2022年8月6日土曜日

知らないと怖い「税金と確定申告」の常識。その支出は経費にならないかも

 ミュージシャン、Youtuber、ライター……クリエイターとして、創作を楽しく、長く続けるためには、知っておくべきお金、ビジネスモデル、マナー、法律や契約のことが多々あります。クリエイターパートナー事業を展開する「しろしinc.」CEOの山田邦明さんは、弁護士としても、会社の代表としても、多くのクリエイターたちと仕事をしてきました。そんな山田さんが創作活動を続けていくために必須のスキルなどをまとめた著書『クリエイター1年目のビジネススキル図鑑』(KADOKAWA)が5月に発売になりました。今回は同書から、「税金の基本的な考え方」「確定申告( 青色、白色)」について一部抜粋します。

◆税金ってどんな種類があるの?

雇用契約による給与の場合、何らの手続きなく自動で税金を引かれて処理されます(天引きといいます)。そのため、会社に勤めている人は、税金を意識することが少ないと言えます。一方でクリエイターとして活動していく中で、給与以外の収入を得るようになると途端に税金が常に頭をちらつくようになります。そこで、まずはクリエイターとしておさえておくべき代表的な4つの税金の概観を見てみましょう。

【所得税】

1年間の所得に対して課される税金。所得によって税率が変化する。

【住民税】

自分の住む都道府県や市町村によって課される税金。

【個人事業税】

個人事業主の事業内容に応じて課される税金。

【消費税】

商品などを販売するときに課される税金。

◆税金はいつどうやって払えばいいの?

給与から税金の天引きがなされない場合、それぞれの税金によって支払いタイミングが異なります。支払い方法と合わせるとこちらの一覧になります。

【所得税】

2月16日~3月15日の間に確定申告を行い、納税する。

【住民税】

6月頃に届く納税通知書を受け取り、書類記載の期限までに納税する。

【個人事業税】

8月頃に届く納税通知書を受け取り、書類記載の期限までに納税する。

【消費税】

(対象者は)3月末日までに確定申告を行い、納税する。

「住民税」と「個人事業税」は、それぞれ届く納税通知書に記載されている金額を銀行等の金融機関で納税します。一方で、「所得税」と「消費税」は確定申告を自ら行い、その後納税することになります。「税金」は急に何か書類が届いて、お金が出ていく、と思っていると不安になるのですが、大きく4つの税金があって、それぞれ支払時期が決まっていると分かっていれば過度に怖がる必要はありません。また、給与の場合と比べて過度に損をしているということもありませんので、安心してください。

◆恐れることはない「確定申告」の常識

クリエイターが絶対に避けて通れないのが「確定申告」です。この確定申告の時期が近づくとSNSなどでは、クリエイターの悲鳴が多く聞こえますが、適切に理解しておけば、あまり恐れることはありません。ここでは確定申告についての理解を深めて、自分のやりやすい形を探していきましょう!確定申告とは、一般的に所得税の確定申告のこと。1年間の所得(売上から経費を差し引いた利益)をとりまとめ、所得にかかる税金を計算して確定させ、国(税務署)に納めるべき税額を報告(申告)する手続きのことをいいます。1年に1回、1月1日から12月31日の「所得」と「納める税額」を計算し、原則として、その翌年の2月16日から3月15日の間に税務署に報告・納税します。確定申告をしなかった場合、「納める税金に最高税率20%の無申告加算税がかかる」「納める税金に最高税率14.6%の延滞税がかかる」「青色申告特別控除の枠が、最大65万円から最大10万円に減額される」のようなリスクがあります。

◆私は確定申告すべき?しなくても大丈夫?

確定申告の対象者は、課税所得がプラスの方です。つまり、確定申告の対象かどうかは、

①売上の確定

②経費の確定

③各種控除の確定

を行い、課税所得を確定することで判断できます。売上については分かりやすいと思いますので、ここからは、「経費」と「各種控除」について見ていきましょう。

※ただし、課税所得がマイナスであったとしても、確定申告をすることは可能です。それによるメリットもあるので、気になる方はインターネットで「赤字 確定申告」などと調べてみてください。

◆経費なるかは「売り上げにつながるか」

経費とは、事業を行うために使用した費用のこと。つまり、その支出が経費になるかならないかの判断基準は、「売上につながるかどうか」です。そのため、同じ支出でも、事業内容によって経費になるかどうかが変わってくることがあり、それがクリエイターの混乱を招いているといえます。たとえば、「漫画」を購入した場合を例にしてみましょう。漫画家にとって他の人の漫画を研究することが自身の漫画の創作に活きるというのであれば、その漫画の購入代金は経費になります。一方で、完全に趣味で好きな漫画を買っている場合には、経費にすることはできません。このように、自身の事業の売上につながるか否かで分別し、経費を考えていきます。一般的には、このようにまとめることができます。

◆経費になるもの、ならないものとは?

【経費になるもの】

・事務所の家賃や光熱費等(自宅が事務所の場合は自宅の家賃や光熱費の一部を経費にすることができる)

・仕事に必要(常識の範囲内で「仕事に必要」と説明できればOK)な機材

・クライアントとの交際費

・仕事に必要な交通費

・仕事に必要な書籍や資料…など

【経費にならないもの】

・プライベートで使うもの

・住民税や所得税

・友人や家族との飲食費

・使っていない原材料

・在庫の商品…など

レシートや領収書。個人事業主になる前は、ただのゴミだと思っていたものが、金券に見え始めます。レシートや領収書をもらったら、しっかりと保存しておきましょう。飲み会や結婚式なども、あくまで売上につながる必要がありますが、経費にすることが可能です。あらゆる自分のお金を使う場面を、一度「経費になるか?」の観点で洗い直してみることをおすすめします。

◆寄付金、扶養…各種控除って何?

各種控除の中には所得控除というものがあります。代表的なものには、本人や家族などの1年間の医療費が一定金額を超えた場合に受けられる「医療費控除」、社会保険料を払っていると受けられる「社会保険料控除」、生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料などを払っていると受けられる「生命保険料控除」。ふるさと納税を行うと受けられる「寄付金控除」、扶養家族がいる場合に受けられる「扶養控除」、合計所得金額が2,500万円以下の場合に誰でも受けられる「基礎控除」などがあります。これに加えて、青色確定申告をする場合には、「青色申告特別控除」などもあります(より詳しくは国税庁Webサイトで確認してみてください)。改めてまとめると「売上」を確定し、「経費」「各種控除」を引いてプラスになる人は確定申告が必要、マイナスの人は確定申告が不要、となります。なお、青色申告で「売上」ー「経費」がマイナスの際にも、来年以降に繰り越せる場合があるので、申告したほうがよい場合もあります。

<TEXT/しろしinc.CEO 山田邦明>

【山田邦明】

クリエイターパートナー事業を展開する「しろしinc.」CEO。岡山県津山市出身。京都大学法科大学院を卒業後、スタートアップ向け法律事務所で弁護士として活動。知的財産や資金調達に関する契約業務などに従事。 その後エンターテインメント会社アカツキに初期からジョイン。管理部門の立ち上げ、IPO業務の主担当として、上場に貢献


bizSPA!フレッシュ / 2022年7月19日 8時46分


欧米景気後退で日本人がさらに「貧しく」なる根拠 ほかの国より世界情勢の影響を受けやすい理由

 金利上昇とウクライナ侵攻によってアメリカとヨーロッパが景気後退に陥った場合、日本はうまくやれるだろうか。歴史を手がかりとするのなら、「やれない」というのが筆者の答えだ。それはすべて欧米の景気後退(起きればの話だが)の深刻さ次第である。というのも、歴史上の記録から見れば、日本経済は、他国発の景気後退をはじめとする経済的ショックに対して、甚大な反応を起こしやすいということがわかる。

○日本人の生活水準は継続的に低下

もし歴史が繰り返されるのなら、このことは2つの好ましくない結果をもたらし、長期的に尾を引くだろう。第一には後述するように、大部分の日本人が生活水準の継続的な低下を経験することである。それは大多数の労働者の実質賃金の低下や高齢者1人当たりの社会保障支出の削減といった形をとる。第二は、アジアにおける日本の影響力が低下し続け、中国に対抗する力が弱まることである。2021年版「アジア・パワー・インデックス」が報告するところによれば、すべての分野において、日本のパワーは「初めて大国とみなされる閾値である40ポイントを下回り、高パフォーマンスの中堅国として考えられている」と報告している。アジア内の経済関係(貿易、投資、技術的リーダーシップといった「経済的相互依存関係を通じて影響力とレバレッジを行使する能力」)に関しては、日本のスコアは、インデックス算出を開始した2018年の56点から、2021年の40点に落ちた。これに対し、中国のスコアは96点から99点に上昇した。日本は自由貿易協定や安全保障問題での協力、軍事力の強化などを通じて影響力を高めようと努力しているが、日本の経済的重要性の相対的な低下を克服するには十分ではない。他国がより迅速に影響力と交流関係を拡大する中で、日本はつねに後れをとっている。例えば、2021年のアジア太平洋25カ国の輸出品に占める日本の割合はわずか9%であるのに対し、中国の割合は33%に増加している。この趨勢に加えて、他の観点でも同様の傾向がみられた結果、貿易に関する日本のスコアは2018年の37点から2021年の25点に急落した。地域投資については、2018年の日本のスコアは79対83と中国に近いものだったが、2021年には56対97と大きく引き離されている。要するに、日本の経済的弱点は、生活水準のみならず、国家安全保障に対する脅威でもあるのだ。

○世界的なショックでより大きな打撃を受ける日本

概観すれば、世界的、国内的なショックが発生した場合、日本経済は他の富裕国と比べてより大きな打撃を受け、その被害はより長期間持続することがわかる。2008?2009年の世界的な金融危機を考えてみよう。日本の金融システムは、この災いを引き起こした不正行為にほとんど関与していなかった。しかし、2007?2009年には、日本のGDPは5.6%低下した。これは、OECD(経済協力開発機構)に加盟している富裕国23カ国の中で21番目に大きな落ち込みを見せた。OECD全体のGDP低下率は、その半分未満の2.5%にすぎない。その次には、新型コロナウイルス感染症が流行した。日本は他の富裕国に比べて患者数も死亡者数もはるかに少なかったにもかかわらず、それに伴う封じ込め対策と、サプライチェーンにおけるボトルネックによって、経済的にはるかに大きな打撃を受けた。さらに悪いことに、新型コロナは2019年の消費税引き上げによる負担と重なった。その結果、2022年1?3月期の日本の1人当たり実質GDPは、3年前の2019年春と比べ、いまだに2.6%低い水準にある。一方、他のOECD諸国では、同期間のGDPは2%上昇した。スペインを除けば、日本のパフォーマンスはOECDの中で最悪だった。実際、2度の消費税増税(2014年と2019年)と新型コロナの流行の結果、2022年1?3月期の日本の実質GDPは、ほぼ9年前になる2013年と比較して2%しか増えていない。個人消費は2013年に比べて3.4%減少している。

○なぜ日本はこれほど脆弱なのか

他国では比較的軽度で一時的な影響しか及ぼさないショックが、なぜ日本ではこれほどの被害をもたらすのだろうか。その理由は、近代的な成長理論の大原則に日本が抵触していることにある。1960年代から、経済学者の間では、市場経済がマクロ経済の不安定化を回避するためには、その成長は「均衡」をとらなければならない、すなわち、GDP、個人の所得、消費、投資が長期的には、大まかには同一のペースで成長しなければならない、ということが知られていた。失われた数十年の間に、個人所得はGDPの成長に後れをとるようになり、その状況は時間とともに悪化している。このような不均衡は他の富裕国でも見られるが、日本ではより深刻である。言い換えれば、GDPの成長が鈍化しただけでなく、その成長の果実が賃金、年金、預金金利などを通じて国民に行き渡る量が少なくなっているのである。1995年から2018年まで、1人当たり実質GDPの成長率は総計17%であり、OECDの中で2番目に低い成長率だった。日本は小幅な成長を遂げたものの、今や人口の3分の1近くを占める高齢者の可処分所得の中央値は11%もの大幅な暴落を記録した。現役世代については可処分所得の中央値が2%落ち込んだが、これは主に実質賃金上昇の停滞によるものである。この結果、2種類の不安定性が生じた。第一は、日本が、消費を促進し、慢性的な不況を回避するために、数十年にわたる巨額の財政赤字と、ゼロに近い低金利に頼ってきたことである。第二は、こうした財政・金融政策を実施してもなお、経済は経済ショックに対する耐性を失ってきた。一言で言えば、家計所得の低迷がGDPにブーメランのように返ってきて、日本の成長率を下げているのである。その詳細を見てみよう。

○政府予算によって賄われる個人消費

「失われた20年」の間に民間部門の所得が伸び悩んだため、政府からの現金給付に対する家計支出の依存度はますます大きくなった。1980?1992年当時、家計所得の増加分の85%は、賃金、自営業収入、家賃、配当、利息、個人年金、保険年金など民間部門の所得の増加によるものだった。社会保障やその他の社会扶助など、政府による現金給付の増加によるものは、わずか15%であった。その後、大きな反転があった。1992年以降、民間部門における所得向上は蝸牛の歩みにまで減速した。30年近くもの間、達成された伸び率はわずか4%、実質(物価調整後)年率で言えば0.1%しかなかったのである。一方、大幅な財政赤字で賄われた政府の現金給付は、2倍以上に増加した。その結果、家計所得の伸びの4分の3近く(72%)が政府の現金収入によるものとなった。民間所得の増加が寄与したのは28%にすぎない。政府の赤字支出がなければ、個人消費ははるかに弱く、したがって、GDPもさらに悪化していただろう。したがって、2008?2009年の不況以来、社会扶助の伸びが著しく減速したことは、将来の重要な前兆である。1992?2008年に政府の現金給付は年間3.2%増加したが、2008年以降は1.7%と増加ペースが半減している。この減速が続くか、さらに悪化すれば、消費を適度なペースで伸ばし続けるには、民間所得の大幅な回復が必要となる。もう1つ、見落とされがちな要因がある。家計は消費を維持するために、貯蓄をほとんどしなくなり、日々の暮らしに追われるようになった。1980年代前半、家計の貯蓄率は可処分所得(税引後)の約16%であった。日本人は貯蓄する文化があるという神話が生まれるほどである。ところが、貯蓄率は1980年代後半にやや縮小し、その後、失われた数十年の間に急落。2013?2015年にはマイナスにまで落ち込み、2016?2019年には平均1.3%という低水準にとどまっている。

○潜在成長率を下回る経済

こうしたことが原因で、日本経済は経済的なショックを吸収する能力が低下している。通常の景気循環では、経済の実質GDPは潜在GDPと呼ばれる水準の上下を行き来する。潜在GDPとは、雇用が比較的完全に近く、物理的な生産能力が相対的にフルに近い水準で発揮された場合に達成されるGDPの水準である。したがって、潜在成長率とは、経済が持続的に成長しうるペースのことである(経済が潜在成長率を大きく上回ったペースで成長しようとすれば、たとえわずかな期間であっても、インフレやサプライチェーンの問題など、さまざまな金融的・物理的ストレスを引き起こすことになる)。景気後退が生じると、消費者と企業の双方に累積需要が蓄積される。一時的な財政・金融刺激策によって景気後退からの回復が促進されると、この累積需要が解放され、経済はフル稼働に戻り、その勢いによって以前の稼働力をわずかに上回る。ここで重要なのは、このようなサイクルを通じて経済が平均的に潜在成長率近くの水準を推移し続けることである。しかし、日本では、景気が打撃を受けると家計の手持ち資金が不足し、回復後も活発な消費を再開することができない。また、消費者の購買力が弱いため、企業は設備投資を控えてしまう。その結果、財政・金融面での景気刺激策による早期回復の効果は弱まっている。過去30年間、日本のGDP成長率は平均して潜在成長率を1.2%下回ってきた。その結果、1人当たりのGDPは年率0.6%増という蝸牛の歩みさながらのペースで推移してきた。要するに、日本には2つの問題がある。第一は、生産性の伸び悩みにより、潜在成長率が低下していること。第二は、その潜在成長率すら達成できないことである。

○マクロ経済の不安定性をさらに加速させる円安

急激な円安は日本におけるマクロ経済の不安定性をさらに悪化させている。円安は輸入品の円価を上昇させ、したがって、消費者の購買力のさらなる低下を招いている。消費者支出の40%近くは、エネルギー、食料、衣料、履物など、輸入品が占めている。消費税増税を差し引いても、これらの品目は2012年から16%値上がりしている。一方、個人消費の残りの60%を占める品目の物価は、同期間にわずか1.5%しか上昇していない。つまり、2012年以降の消費者物価指数(税引)の上昇分の93%は、輸入への依存度が高い品目によってもたらされているのである。そして、2021年初からの上昇の100%は、こういった輸入に大きく頼った品目によるものだ。連邦準備制度理事会(FRB)が用いるコアインフレの指標(食料とエネルギーを除いたすべての品目)を基準にすると、2021年1月以降のインフレ率はゼロである。日本は、円安によって日本の家計から石油、食料、衣料などの海外生産者に所得が移転する「悪いインフレ」に見舞われているのだ。これはOPECによる石油価格の上昇と同程度に有害である。同時にこれは、日本の家計から日本の多国籍大企業に所得が移転していくことにもなる。円安が続くかどうか、またいくらまで進むかは誰にもはっきりとはわからないが、年末には1ドル140?150円になると見るトレーダーは増えている(本稿執筆時点では139円台)。そうなれば、消費者の購買力の足をさらに引っ張ることになる。

○アベノミクスから脱却できなそうな日本

読者は、ここでの主張が、岸田文雄首相がロンドン演説で宣言した内容と似ていることにお気づきだろう。首相は「これまで賃金の伸びは限られてきた。それが消費を抑制し、ひいては経済全体の成長を妨げている。日本は生産性を高め、生産性とともに賃金が上昇するようにしなければならない」と述べた。さらに、岸田首相はアベノミクスの特徴である「トリクルダウン理論の失敗を覆す」ことを誓った(故・安倍晋三元首相を名指しで批判することはなかったが)。安倍元首相は、円安が企業収益を上げ、インフレ率を上げると主張した。その結果、企業は賃金を上げ、新規設備への投資を拡大し、消費とGDPを向上させることになる。しかし、現実には、企業収益は急増したものの、そこからトリクルダウンした(滴り落ちた)のは微々たるものだった。それどころか、所得が下位所得層から上位所得層に転移するトリクルアップが起きた。残念ながら、岸田首相は、正しい診断を下しながら必要な薬を出さない医者のようだ。代わりに彼が提供するのは、美辞麗句を並べたプラシーボ(偽薬)だけだ。


リチャード・カッツ:東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)


東洋経済オンライン / 2022年7月20日 8時0分


富田裕樹元池田市長の言い訳

 【サウナ市長と呼ばれて/第1回】元池田市長「なぜ私は市長控室に家庭用サウナを持ち込んだのか」

空前のサウナブームの到来で、全国のサウナ施設はどこも満員御礼。「サウナー」と称されるサウナ愛好家たちが“ととのい”という名の悦楽を求めて行列をなす一方、サウナがきっかけで身を崩した男がいる。彼の名は冨田裕樹(45)。2019年4月に大阪府池田市長選挙に出馬し当選するも、市役所内の市長控室に家庭用サウナを持ち込んだことが問題視され、百条委員会を設置されるまでに発展。パワハラ疑惑なども噴出し、2021年7月で辞職に追い込まれた男である。あの騒動から1年。「サウナ市長」と呼ばれた冨田氏は妻と子を大阪に残し、単身で東京にいた。彼はいま何を思い、あの騒動と結末をどう飲み込んだのか。元サウナ市長の知られざる苦悩の日々を追った──【全3回の第1回】。

* * *

そもそも、あの騒動が明るみに出たのは冨田氏が池田市長に就任して一年半後のこと。2020年10月に配信された『市役所に勝手に住み着いた大阪「池田市長」家庭用サウナも持ち込んだ証拠動画』というネット記事からだった。「私が市長に着任したときから、完全にアウェイの風が吹いていました。前の市長は市議を20年、市長を20年やっていて、役人も部下もみんなファミリー意識が強く、多くのコネや既得権益が存在するといった完全なるムラ社会でした。そのため、私を蹴落とすためにさまざまな嫌がらせを受けてきたので、そのたびにデイフェンスして跳ね除けながらなんとか公務を遂行してきました。家庭用サウナやパワハラ疑惑が報じられたときは、『マスコミに売ったか』、『いよいよここまで来たか』という感じでしたね。家庭用サウナを市長控室に持ち込んだ理由は2点。ひとつは、学生時代にアメフトをやっていたため首のヘルニアになり過去に4回も手術しているのですが、実は公務中にも頸椎に痺れが出始めまして。サウナの中で首をけん引したり、体を温めることで体調管理をする必要があったから、家庭用サウナを市長控室に設置して昼休みにだけ使わせてもらうことにしました。そしてもうひとつは、旧体制から執拗な嫌がらせを受け続けていたため、いずれ家族にも危害を加えられるのでは……と考えるようになりまして。私に危害が及ぶのはまだいいとして、それが家族に及んだら悔やんでも悔やみきれません。そのため妻と子供には別の家に引っ越してもらい、私だけ小さな部屋で暮らし始めたのです。これまで使っていた家庭用サウナを単身用の新居に持ち込むことはスペース的に難しかったため、秘書とも話し合いながら、『体調管理もあるし、一時的に置かせてもらってもいいかな』ということで、家庭用サウナを市役所に移送することにしたんです。落ち着いたら広い部屋に引っ越しをして、そこにサウナを移送するつもりでした」(冨田氏、以下同)

しかし、折しも空前のサウナブーム。「公務中にととのっているのか?」との市民からの鋭いツッコミが広まり、冨田氏は窮地に立たされることに。すぐさまサウナ利用時の電気代を返還したが、その額が合計690円という破格の安さだったことがさらなる注目を集めた。サウナーの間では「ちょっ! 家庭用サウナはこんなにも電気料金が安いの?」と話題になり、冨田氏が使用していた家庭用サウナ『ナチュラルスパ コンパクト』は実際に売り上げがアップしたという。「電気料金は市役所のものですので、返還するのは当然です。家庭用サウナを持ち込んで実際に使用したのが30日。使用時間も含めて関西電力の計算式と照らし合わせて、誠実に使用料金を出させていただきました。後遺障害の症状緩和という理由があったにせよ、やはり公人たるもの、公私混同と誤解を招くようなことはやってはいけないと深く反省しております」冨田氏への糾弾は家庭用サウナだけにとどまらず、「自転車型トレーニング器具やストレッチ器具を市長室に持ち込んだ」「市長室でキャンプ用の鍋でラーメンを調理し、芋を湯がいた」などといった行為が百条委員会やマスコミによって報じられ、「市長室をレジャー感覚でカスタマイズしている」疑惑が浮上。「箸、食品、ダンベル、なわとび、ネクタイ、キャンプ用鍋、ガスボンベ、バーナー、鍋セット、ジューサー……」と冨田氏が市役所内に持ち込んだとされる私物を百条委員会の担当者が淡々と列挙するシーンは連日のように報道され、「市長室を私物化するサウナ市長」というイメージが大きく拡散された。加えて、「職員にタオルや鍋を洗わせた」とも報じられ、職員に対する恫喝や叱責とも取れる録音データの存在が明らかになり、パワハラ疑惑までもが広く報じられたのだ。「パワハラなんて一度もしたことありませんし、すべて冤罪です。あの録音データは卑劣な政治家と電話で激しくやり合ったときの音声を録音されたもので、職員に対してのものではありません。トレーニング器具やストレッチ器具に関してはサウナと同様、体調管理のために私物を持ち込んだだけです。また、市長室内でラーメンを調理して食べたことは一度もありません。先日、知り合いに『あの当時、市長室に七輪を置いてたってほんま?』と聞かれてがく然としましたが、マスコミ報道の影響でそんなふうに誤解されている方がたくさんおられるかもしれませんね。私物で市長室をカスタマイズして遊んでいたわけでもないですし、バーベキューセットを常備して友達を呼んで宴会していたわけでもない。すべては万全な状態で公務をするために必要だった、それだけなんです。ただ、早朝から働きづめで昼ご飯を取る時間もないほどでしたので、鍋で卵をゆでて食べたことは何度かあります……あっ、すいません! 芋は一度だけ湯がいたことがあります。支援団体の方が市長室にこられて『これ食べたら元気になるんで食べてください』と芋をいただいたので、ゆで卵をつくるときに一緒に湯がいていただいたんです。『タオルを職員に洗わせた』という点に関しても、秘書課の職員が『庁舎にある洗濯機で一緒に洗うだけなんでやっときますよ』と善意で言ってくれたのでお願いしたのですが、噂が広まって最終的には『冨田が女性職員に無理やり汚いタオルを洗わせたことで、その女性職員が心療内科に通院するようになった』という話に脚色されて、百条委員会で詰問されることになりまして。その女性職員はぜんぶ否定してくれたんですが、メディアでは『冨田が女性職員に無理やりタオルを洗わせて心療内科に通うようになった』と僕に詰問しているシーンだけが繰り返し流されたため、そのようなイメージになってしまったんでしょうね」さまざまな疑惑をなんとか晴らそうとしていた冨田氏だったが、2021年4月、第11回の百条委員会が開催され、「不信任決議が相当」とする報告書案が全会一致で可決。同月、冨田氏は「けじめと責任を取る」として市長を辞職すると表明した。そして2021年7月30日、サウナ室のような暑い夏の日に、彼は一市民に戻ることになった──。(第2回につづく)

取材・文/田辺健二 撮影/渡辺利博 NEWSポストセブン / 2022年7月23日 7時15分


【サウナ市長と呼ばれて/第2回】送った履歴書400枚、家はゲストハウス、45才の元市長、苦難の「再就職戦線」

働く男たちがサウナで疲れを癒す一方、サウナで身を崩した男がいる。彼の名は冨田裕樹(45)。大阪府池田市長時代に市長控室に家庭用サウナを持ち込んだことが問題視され、百条委員会が設置されるまでに発展。パワハラ疑惑なども噴出し、2021年7月で辞職に追い込まれた男である。第1回では彼が「サウナ市長」と呼ばれるまでの顛末を追ったが、市長を辞してから彼がどのような生活を送っているのかはまったく報じられていない。彼はいま何を思い、前代未聞のサウナ騒動とどう向き合っているのか。女性セブンWEB取材班が、元サウナ市長の知られざる苦悩の日々を追った──。

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2021年7月30日、「けじめと責任を取る」として市長を辞職した冨田氏。8月29日には出直し市長選挙に再出馬し、炎天下の路上で「潔白」の意味を込めた白いシャツをまとい必死に選挙活動を繰り広げたが、候補者4人中最下位で落選。家庭用サウナを市長控室に持ち込んだことで前代未聞の騒動を生んでしまった男は、さまざまな疑惑を払拭できないまま、市長のイスを完全に失ったのだった。「頸椎の後遺障害の症状緩和のためとはいえ、家庭用サウナやトレーニング器具を持ち込んだことは事実ですし、公人として公私混同と誤解を招くようなことをしたのは今も反省しております。このような騒動を起こしたけじめと責任を取るという意味で辞職を決めたのですが、パワハラ疑惑をはじめとする“でっちあげ”の数々は最後まで否定し続けました。市民の皆さんにもさまざまな誤解を招いてしまったため、その誤解を解き疑惑を払拭するために再出馬したのですが、無所属で出直し選挙だったということもあり、個人の力とはこれほど小さいものなのかと痛感しましたね。私は“地方政治の闇”、“池田市にはびこる闇”と戦い続けてきたという自負はあります。古傷が悪化し頸椎に痺れが出たり、胃潰瘍にもなるほど満身創痍でしたが、それでも点滴を打ちながら早朝から深夜まで市民の皆さんのために働き続けました。志半ばで辞職することになったのは残念で仕方ありませんし、わきが甘くて反省する点も多々ありましたが、市民の皆さんのためにやるべきことはやったと胸を張っていたい」とはいえ、政治家の道をあきらめたわけではないという。「政治家という身分にこだわっているわけではなく、社会をよくするための最善の手段が政治家だと思っています。日本の法的な問題とか歪な社会構造を変えようとしたら、政治家になるしかない。ですから、いずれは国政の道へ進みたいという強い意志はあります。しかし、今はまだ、その時期ではない。私に対して誤解を抱いている方がたくさんおられますので、ひとつひとつクリアにしていきながら、とは思います。それに、妻と子を養っていかなければいけないので、このまま無職というわけにもいかない。というわけで職探しを始めたのですが、これがかなり苦戦しまして……」冨田氏は「市長月額給与30%カット、退職金ゼロ」を公約に掲げて当選していたため、辞職時に潤沢な貯金があるわけではなかった。そのため、すぐさま職を見つける必要があったのだが、ここでも「サウナ市長」という負のイメージが彼を苦しめることに。「身の潔白を証明するには活動の拠点を東京に移すしかない。そんな思いから東京で職探しをしていたのですが、私の履歴書を見た人事の方が、ネットで名前を検索すればすぐ『わっ、サウナ市長や!』ってなるみたいなんですよね。こんな面倒くさいヤツをわざわざ雇いたくはないじゃないですか。結局、履歴書だけでも400社近くに送ったと思いますが、すべて全滅でした。この歳からの再就職ですから年齢的な面でも不利なうえに、サウナ市長という悪いイメージがずっと付きまとってくる。正直、苦しかったですね。ただ、履歴書には池田市長だったことも明記しましたし、『今後、政治家を目指していきたい』という自分の意思もしっかり書きました。嘘だけはつかないでおこうと決めていましたので、一切自分の身元をごまかさず、すべてをさらけだして就職活動をしていたため、ここまで苦戦を強いられたのかもしれません」当時は東京のゲストハウスに身を寄せ、夢を追う若者たちと寝食を共にしながら就職活動をしていたという冨田氏。節約をしながら、一日でも早く仕事を見つけようと、東奔西走していたという。「お金が続かないので夜勤のバイトをしつつ、そのまま朝からネクタイをして面接に行くという日々でした。疲れ果ててゲストハウスで昼間から寝てしまうときもありましたね。同じ時期に寝泊まりしていた若者と仲良くなって一緒にキッチンでご飯を作ったりもしました。『何をしてる人なんですか?』と聞かれたときは答えに困って『いろいろやってたよ』としか言えませんでしたけど。『45歳でゲストハウスに泊まってて、この人、大丈夫かな?』と心配されていたと思いますね。彼らとは仲良くはなりましたけど、結局連絡先は交換しませんでした」そんな苦しい時期を乗り越え、無事に職を見つけたという冨田氏。現在は公共政策のコンサルタントや企業顧問などを中心に忙しい日々を送っている。「結局は就職というかフリーランスのようなかたちでコンサルタントや企業顧問をやらせていただくことになったのですが、私が市長時代にさまざまなでっちあげで辞職に追い込まれたことをすべて知っている人たちにお世話していただきまして。本当に感謝しかありません。今はゲストハウスを出て、ビジネスホテルで暮らし、月に何度か家族のもとに帰るという日々です。ちなみに、このビジネスホテルにサウナはついていません(苦笑)。サウナがきっかけでいろいろありましたが、サウナを嫌いになったわけはありません。今もたまには行きますよ。やはり体温をあげるってすごく大事ですし、副交感神経を刺激してリラックスもでき、ストレスの解放にもつながる。サウナとは今度も適度な距離感で付き合っていきたいと思っています」政治家として再起を図るため、ひとまずは安定した生活を手に入れた冨田氏。その晴れやかな表情は、サウナでととのった男たちが浮かべる笑顔のようでもあった。(第3回につづく)


取材・文/田辺健二と女性セブンWEB取材班 撮影/渡辺利博NEWSポストセブン / 2022年7/27(水) 16:15配信


【サウナ市長と呼ばれて/第3回】私が見た地方政治の闇「続けたいなら何もするな」正義がまかり通らない世界とは

働く男たちがサウナで疲れを癒す一方、サウナで身を崩した男がいる。彼の名は冨田裕樹(45)。大阪府池田市長時代に市長控室に家庭用サウナを持ち込んだことが問題視され、パワハラ疑惑なども相まって、2021年7月で辞職に追い込まれた男である。今回のインタビューで彼の口から何度も飛び出した「地方政治の闇」。これは何も池田市だけの話ではない。広島県安芸高田市議会の「居眠り騒動」、千葉県市川市の「市長室ガラス張りシャワー室騒動」、兵庫県尼崎市の「USB紛失騒動」、山口県阿武町の「持続化給付金4630万円誤送金騒動」など、地方政治に目を向けるとなんともお粗末な事件や騒動がたびたび報道されている。では、実体験として地方政治の闇を体感してきた冨田氏はこれらの騒動についてどのような思いを抱いているのか、女性セブンWEB取材班が追った。最終回となる今回は、数奇な騒動を体感した冨田氏だからこそ知る、さまざまな地方政治の闇に光を当てた──。

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冨田氏が池田市長を辞職するきっかけとなった「市長室に家庭用サウナをはじめとするいろんな私物を持ち込みすぎた問題」。公私混同と誤解を招いたことは本人も認めていたが、それでも「百条委員会まで設置するのはやりすぎでは?」という声があったのも事実だ。「そこまでして、とにかく私を市長の座から蹴落としかったということなんです。地方政治はさまざまな利権や既得権益やしがらみが存在しており、私のように『池田市をよくしたい』という思いで改革を起こそうとすると異分子と見なされ、徹底的に排除しようとする。私が市長に就任した直後、周りの職員から『とにかく一期目は何もしないでほしい。改革は二期目でやりましょう』と言われました。性急な改革は旧勢力を刺激することになり、必ず揉め事になる。それが地方政治の特徴です。自分がしたことを棚に上げるあげるわけではないですが、正直、私物持ち込み程度で百条委員会は私もやりすぎだと思いますよ」最近では、広島県安芸高田市議会の「居眠り騒動」が何度も報じられ、元エリート銀行マンの石丸伸二市長と議会との対立が何度もクローズアップされている。市議会との対立という意味では似たような経験をした冨田氏の目にはどう映るのだろうか。「この石丸市長という方も『安芸高田市をよくしたい』という強い意志を持っておられる方だとお見受けしますが、旧態依然とした市議会議員に対して『恥を知れ恥を!』とまで突き付け、対立関係が深まってしまったばかりに、副市長案や議員定数削減案を否決されるなど窮地に立たされている。すべての地方自治体がそうだとは言いませんが、昔ながらの義理人情が優先される世界だというところはたしかに多いんです。挨拶がないとか、『前もって聞いてない』とか、そういう低い次元で反発心を抱き、旧体制で徒党を組み、新興勢力を駆逐しようとする。市長を長くやりたいなら、何もせずずっとニコニコしていればできますから。居眠りなんて見過ごして、一緒に仲良く酒でも酌み交わしていたら駆逐されることはない。しかし、それでは何も変わらないんです。私は池田市長時代にさまざまな事業見直しや機構改革を推進しましたが、これらの変革の種をまいても芽が出て花を咲かすまで少なくとも3年はかかる。つまり、1年目からフルアクセルを踏まないと任期中に改革なんてできないんですよ。だから真面目に改革をしようとする市長ほど議会と衝突してしまうんです」では、2021年2月に報じられた、千葉県市川市の「市長室ガラス張りシャワー室騒動」についてはどうか。約360万円を費やして新設されたガラス張りのシャワー室だけでなく、「公用車をテスラに変更」「市長室に合計1058万円の家具を導入」も明らかとなり、当時の村越祐民市長の金満ぶりが問題視された。奇しくも冨田氏の「サウナ騒動」が紛糾していた頃と時期が重なっていたが……。「そうですね……。繰り返しになりますが、私が後遺障害の症状緩和のために持ち込んだ家庭用サウナやトレーニング器具はすべて私物ですし、もちろん水風呂があったわけでもなく庁舎のシャワーも壊れていたので、サウナやトレーニング後は濡れたタオルで体をふく程度でした。とはいえ、ガラス張りのシャワー室はやりすぎだと感じますし、市長室の家具に1000万円以上を費やしていたのも、あきらかにやりすぎです。ちなみに私の場合は市長室のイス、パソコン、パソコン机、冷蔵庫などもすべて私物を持ち込んで使用していました。理由は、徹底して公費の使用を控えたかったからです。また、公用車をテスラにするというのも当然ながらやりすぎです。私の場合は職員の負担削減とコスト軽減のため、公用車の使用自体を極力控えておりました。むしろタクシーを使用したほうがよっぽど割安で、職員に時間外手当を出す必要もないと判明したためそうしていました」繰り返し報道される地方行政発のお粗末事件簿。旧態依然とした地方自治体が伏魔殿化しやすいのなら、「もはや地方議員自体が不要なのでは?」という思いすら抱いてしまう。「地方政治では、誰かひとりをやり玉にあげて徹底的にいじめ抜いて排除するということが可能な世界。地縁血縁が強く、しがらみや既得権益の巣窟であり、正義がまかり通らないゆがんだ世界なんだと、私は身をもって感じました。ただ、だからといって地方議員が不要だとは思いません。まずは地方議員の在り方を抜本的に変えるべき。例えばデンマークのように地方議員という仕事をボランティアだけにすれば、カネや利権は生まれないはず。伏魔殿化して足の引っ張り合いをし続ける地方自治体って、今後の日本のためにも次の世代のためにもならないし、誰も得しないじゃないですか。私は今回のサウナ騒動を通じて、根本的な解決は地方政治からでは無理なんだと痛感しました。国のトップから落としていかないと地方は動かない。だからこそ、来るべきタイミングで国政の道に進み、最終的には地方政治の在り方を変えていきたいと、強く思っています」空前のサウナブームの折、“ととのい”という境地に達するにはサウナと水風呂の温冷交代浴を3セット繰り返すことが推奨されている。それで言うならば、彼の政治活動はまだ1セット目。来るべきタイミングで彼が2セット、3セットと繰り返し、国政から地方政治をととのわせることができるのか。元“サウナ市長”の灼熱の巻き返しに期待したい。

取材・文/田辺健二と女性セブンWEB取材班 撮影/渡辺利博NEWSポストセブン / 2022年7/27(水) 16:15配信

この人は自分のやったことに反省していませんね。「国政から地方政治をととのわせることができるのか。元“サウナ市長”の灼熱の巻き返しに期待したい。」と書いてあるが誰もこの人に期待していません。この人を企業顧問として雇用する企業ってどこの会社なのでしょうか。