2023年3月21日火曜日

労働者を食い物にする会社のなんとも悪質な手口 業務委託、シフト制、派遣社員に潜むリスク

 新生活が始まるシーズン。期待に胸を膨らませる一方、初めてのアルバイトや新天地で働く方は不安も多いことでしょう。もし勤め先がブラック企業だったら……。ブラック企業を事前に察知して回避する方法や、実際にブラック企業に勤めてしまった際の対処法を身につけておきたいところです。『20代からの働き方とお金のこと』より一部抜粋、再構成して、不幸な働き方を避けるための秘訣をお届けします。 

〇業務委託は「偽装雇用」にご用心

IT企業に勤めていたイトウさん(仮名)は、ある日社長から「正社員ではなく、業務委託の形で再契約しないか」という提案を受けた。業務委託とは、会社と雇用契約を結ぶのではなく、「この業務を行ってくださいね」と会社から依頼を受けて発生する仕事のことだ。日給や月給ではなく、1つの案件をこなすごとにいくら、といった対価の支払われ方が主流となっている。社長からの誘い文句としては「成果報酬制だから働けば働くほど儲かる」「時間に縛られず働ける」といったものだった。いい条件だと思い、業務委託契約を結び直したイトウさんだったが……。まず、自由な時間などまったくなかった。始業時間は社員の頃と変わらず、残業時間は倍増。しかも契約上、残業代は出ない。収入は激減した。このケース、「偽装雇用」と呼ばれる悪質なやり方で、イトウさんは業務委託を受けている立場とはいえない。なぜなら社員の頃と同じ働き方を強いられているからだ。実際の業務内容から、契約は雇用契約であると客観的に判断できる。よって社員の頃と同様の給料は保証されるべきだし、残業代も請求できるわけだ。業務委託契約なら都合よく人材を使うことができるうえに、社会保険料や残業代などの負担を背負わずにいられる。そう勘違いしている悪質な会社は少なくない。より悪質なケースがある。ウチダさん(仮名)は「バイク1台で起業、1日で2万円以上稼げる」という求人触れ込みに惹かれ、バイク便会社との業務委託契約で配送業を始めた。朝9時、指定された広場に自前のバイクでやって来たウチダさん。同じようにバイクを走らせてきた仕事仲間が何人かいる。そこで社員から告げられたのは「仕事が来たら順番に振るので、それまで待機していてください」だった。夕方の5時まで待機するだけの日もあった。仕事をもらえてもせいぜい1件か2件、売り上げは数千円。ガソリン代は自腹だから、ほぼ毎日赤字だ。「契約を解除したい」と社員に申し出ると、「なら違約金5万円を払え。契約書に書いてある」と冷たくあしらわれた。違約金について事前の説明はいっさいなかった。これは明らかな偽装雇用。拘束時間が決められている時点で立派な直接雇用と判断できる。仕事を待っていた時間も労働時間と判断して、最低賃金以上の賃金を請求できるし、ガソリン代などの諸経費も会社に請求できる。このケースではほかの仕事仲間と一致団結して会社と交渉し、一定の金銭が支払われた。業務委託は本来、力量的に対等な間柄でなされるべきもの。すべてが労働者にとって不利な契約になっているわけではないが、悪質なものも多いので、先方と条件をしっかり詰めてから契約を結ぶようにしよう。

〇「シフト制」の盲点

労働日や労働時間を1週間ごとに決める、いわゆる「シフト制」の形態も最近は増えてきた。この手の求人には、「自分に合った働き方」「自由な時間に働ける」といった魅力的な言葉が添えられていることが多いが、十分気をつけたい。

確かに、働く側からすれば働きたい時間に働けるというメリットを感じるだろう。しかし雇う側からすれば、労働条件を曖昧にしたまま人を雇えるわけで、「生かすも殺すも会社次第」の状態を生み出せてしまう。もし希望した時間がいっさい受け入れられず、1週間シフトがゼロになったら無収入だし、逆にすべてのシフトに入れられたら過重労働にもなりかねない。本来、よほどのことがない限り会社が従業員をクビにすることはできない。しかしシフト制で極端な労働時間を設定すれば、従業員のほうから「辞めたい」というワードを引き出すことが可能となるだろう。経営が苦しくなって人材を整理したいとき、あるいは会社側に何かと意見するやっかいな従業員を抱えたとき、会社がこのような手段を使うことがあるかもしれない。つまりシフト制は、その人の労働環境、ひいては人生プランをも雇う側に委ねることになってしまいかねない、実は恐ろしい雇用形態なのだ。実際にシフト制で働く場合は条件面には十分注意が必要だ。大事なことは、週ごとや月ごとにどのくらいの労働時間を確保したいかの希望を出し、合意事項を書面化。両者のサインを残しておくこと。交渉は録音しておくことが理想。たとえば「週4日、合計で25時間くらい。1日の労働時間は7時間以内」という条件をベースとして、働きたい希望時間を出し、使用者サイドへシフト作成を委ねる。こうすることで極端にシフトを増やされたり、減らされたりする危機的事態を防ぐことができる。もし守られていなかったら契約違反なので、会社に改善を要請するのが望ましいだろう。

〇派遣社員という働き方はここに注意

派遣社員は派遣会社に雇用され、派遣先会社の指揮命令下で働く雇用形態だ。したがって派遣社員は派遣元と派遣先、大きく2つの会社と関係を保つことになる。派遣先会社の悪知恵としてよくあるのは派遣切り。「派遣会社の社員なら簡単に切れる」と思っている会社は多く、現在進行形で社会問題となっている。これはつまり、派遣先と派遣社員との間に雇用関係はなく、派遣先と派遣元での契約次第で派遣社員の運命が決まっているのが主因だ。「君が勤めている派遣会社との契約が切れたので、もう来なくていい」と言われてしまえば、派遣元から派遣されてきた派遣社員は従うしかない。しかし、派遣社員は労働者派遣法で守られている。もし派遣期間中に派遣切りとなった場合、派遣先会社は派遣元会社に、契約期間の賃金を補填する休業手当を支払うことが決められている。派遣社員の最低限の収入は保証されるので、無収入という最悪の状況は免れることができる。「派遣社員の囲い込み」という違法行為

派遣元会社の悪知恵でよくあるのは、派遣社員の囲い込み。派遣先会社が派遣社員を直接採用することのないよう、先手を打って派遣先会社に「派遣社員を採用してはいけない」といった旨の契約にサインさせていることがある。実はこの行為、法律で禁止されているので違法だ。派遣社員との間で、「派遣期間終了後に派遣先と直接雇用契約を結んではいけない」といった制約を課すこともあるが、これも同じく違法だ。派遣社員は不安定な働き方だ。派遣先から派遣元へ支払われた報酬のうちの一部を給料として受け取れる仕組みになっており、待遇面でも不利な面は否めない。直接契約できるに越したことはないから、派遣先から「派遣期間が終わったら、ぜひうちへ」という誘いがあったなら、嫌でなければ直接雇用契約を結ぶのがいいだろう。法令によって一定以上の権利が守られているものの、派遣社員が弱い立場になりやすいのは間違いない。職場内のハラスメントといったトラブルが起きても、派遣元と派遣先の関係上、我慢を強いられ、うやむやにされやすい。直接雇用されるなら、それに越したことはない。労働条件については、雇う側が良かれと思って設定している場合もあるかもしれない。重要なことはきちんとコミュニケーションを取ること。わからないことや納得できないことは話し合い、こちらの要望をしっかり伝えるようにしよう。


小西秀昭:ライター


東洋経済オンライン / 2023年3月21日 17時0分


副業実態、40代での実施率が最多に 副業のみの年収平均は?

 ライボ(東京都渋谷区)の調査機関「Job総研」は「2023年 副業・兼業の実態調査」を実施した。その結果、現在副業をしているのは全体の約2割で、副業のみの年収の平均値は20万円であることが分かった。

●副業をしているのは40代が最多

 「現在副業や兼業をしているか」の質問では、全体の22.6%が「している」、77.4%が「していない」と回答した。年代別では、40代の副業実施率が31.7%で最多となり、50代が22.4%、30代が20.7%と続いた。今後、副業をしたいと思うかの問いでは、副業を「したいと思う」(55.1%)、「どちらかといえばしたいと思う」(30.4%)を合わせ、85.5%が“したいと思う派”となった。年代別で“したいと思う派”をみると、40代が87.5%と最多となり、いずれの世代でも8割を超える結果となった。副業をしていると回答した76人に、2018~22年で副業していた年を聞くと、18年が35.5%、19年が46.1%、20年が50.0%、21年が63.2%、22年が72.4%となり、毎年増加傾向がみられた。また18年と比較し、22年の実施率は約2倍となった。また、全体を対象に23年の内に副業を始めたいと思うかを尋ねると、「始めようと思う」「どちらかといえば始めようと思う」と回答した“始めようと思う派”が65.8%だった。現在副業をしていない人に理由を聞いてみると、最も多い理由が「会社から禁止されている」(33.8%)で、次いで「本業が忙しく時間がない」(30.8%)、「同時進行する自信がない」(28.8%)と続いた。今後副業をしたいと回答した人に、副業をしたいと思う理由を尋ねると、「収入を上げるため」が70.4%で最多だった。続いて「小遣い稼ぎ」(48.4%)、「自身のスキル向上のため」(42.5%)となった。

●副業収入は平均20万円

副業をしている人の本業のみでの年収を集計すると、平均が600万円、中央値が631万円、最頻値が550万円だった。副業のみで得ている年収では、平均20万円、中央値が128万円、最頻値が50万円だった。副業に対し回答者からは、「現在は本業企業から禁止されているが、解禁されたら副業してみたい」、「本業だけの収入では毎月ギリギリなので仕方なく副業を行う必要がある」「副業を禁止している企業もあるが、禁止にするなら賃金を上げるべきだと思う」などのコメントが寄せられた。調査は、20~50代の社会人男女336人を対象に、インターネットにて行った。調査期間は2月15~21日。


ITmediaNEWS/2023年3月21日15時5分


2023年3月16日木曜日

行先不透明だからこそ“ポイ活”にハマる男性が急増 “節約”だけでなく“投資思考”も後押し

 日々の生活を通してポイントを貯め、賢く利用していく「ポイ活」。女性が節約のために活用しているイメージが強かったが、テレビや雑誌、WEBなどのメディアでも特集され、ポイント貯めに勤しむ男性が急増中。背景には、コロナ禍や値上げラッシュなども大きく影響しているようだ。節約術からスタートした「ポイ活」に男性がハマる理由と、今後のトレンドについて、ポイ活サイト『ワラウ』を運営するオープンスマイルのメディア事業部・白畑眞澄さんに聞いた。

■節約意識の高いユーザーに注目され「貯めて賢く使う」がメインに

「ポイ活」とは“ポイント活動”の略で、ポイントを貯めたり使ったりすることで、暮らしを豊かにする活動のこと。貯める方法は、商品の購入やサービス利用時など様々で、利用方法もポイントで日用品の購入ができたり、マイルへの交換ができたりと多岐にわたる。1999年に懸賞サイトとしてスタートした『ワラウ』は、もともと企業が提供するプレゼントや景品にネット経由で応募し、当選すると賞品や旅行が当たるシステムを運営。しかし2000年中盤からは、懸賞より確実にポイントが貯まるポイントサイトが、節約意識の高いユーザーから注目されるように。そのため、同サイトも2003年にポイントサイトとしてリニューアルした。同サイトを例にとると、ポイントが貯まる仕組みは主に5つ。1つ目の「広告利用で貯まる」ものは、サイトを経由して提携する際とで買い物をすると、同サイト内のポイント(ワラウポイント)が貯まる。それをTポイントやdポイント、Pontaポイント等に交換し、商品購入等に利用ができるのだ。ほかにも、クレジットカードの発行、銀行口座の開設、アプリゲームの利用などでポイントは貯めることが可能。他の仕組みとしては「アンケートに答える」「雑誌を読む」「レシート投稿」「ゲーム」などがある。同サイトの現在のユーザー数は260万人で、男女比は女性が約65%、20?30代が全体の約半数を占める。高年齢層のほうが、広告利用以外の貯め方も利用している印象があり、「年齢ごとに余暇時間が異なるため」と白畑さんは分析する。

■「ポイ活=節約」の概念に変化、男性へのハードルも下がった2つのきっかけ

節約というイメージから女性、特に主婦層から注目されていた“ポイ活”が、男性にも広まってきたのは、2020年頃からだと白畑さんは指摘する。主なきっかけは2つ。1つ目は、QRコードやその他スマホ決済の普及でポイントに触れる機会が増えたことだ。それまであまりポイントを気にしていなかった男性も、ポイントを貯める体験をし、ポイ活をはじめるハードルが低くなったのだ。そして2つ目は、2020年頃から各社証券会社を筆頭にポイントで投資できるようになったこと。「コロナ禍で先行き不安なこともあり、投資を始める20~30代が増えました。大きな金額を投資に回すのは難しいため、“ポイントで補いながら将来に備えよう”という方が、一定層いるのではないかと考えております」『ワラウ』では、2018年頃に25%程度だった男性が、現在は35%程度へ増加。ポイントを貯める嬉しさや楽しさを経験したことが、男性がハマるきっかけの大きな要因になったのではと、白畑さんは分析する。

「近年は、若い男性も節約や貯蓄の意識が強い方が多く、実際に証券口座の開設数が伸びていることからも、その傾向が見て取れます。ポイ活は節約だけでなく、貯めたポイントで投資まで出来るため、節約・投資思考の方との相性が非常に良く、必然的にハマっていくと感じております」白畑さん自身も、2019年から将来の資産形成を考え、株式投資を始めてから本気でポイ活に取り組むようになったという。

「例えば、『この1万円分のポイントを、投資信託に回して、年利5%で運用できたら、20年後には、2.5万になっている!』…こんなことを想像しつつ、ワクワクしながらポイ活をしております(笑)」男性に特化した商材として、スーツショップや男性向けカミソリ等はあるが数は多くない。それよりも人気は、スマホアプリやゲームに関する広告。それに加え、男性ユーザーは、クレジットカードの発行に関する広告などは大量のポイントが獲得できるため、特に若い世代には魅力的な案件となっている。節約思考の女性とは異なり、ポイントの還元率や投資目的というマインドが、男性のポイ活のモチベーションとなっているようだ。

■ウエル活・ポン活・陸マイラー…次に来る“ポイ活トレンド”は?

昨今、ポイントを使ったり貯めたりできる店舗も多く、それが新規顧客の獲得や来店促進につながることも。ユーザー側もポイントの種類により、その日来店をする店を決める、という選択肢にもなっている。Pontaポイントを使った“ポン活”や、ウエルシア薬局でお客様感謝デーに商品をTポイント決済すると実質33%オフになる“ウエル活”など、次々と生まれる人気の「ポイ活」。また、クレジットカード決済やポイントサイトを活用して、飛行機に乗ることなくマイルを貯める“陸マイラー(おかまいらー)”という言葉も、多くの人に知られるようになっており、SNS上でお得術を公開する配信者も散見される。サイト運営から20年以上経つ『ワラウ』に次にくるポイ活トレンドを、レシート投稿でポイントが貯まる“レシ活”だと予想する。レシ活とは、対象商品をスーパーやコンビニで購入し、アンケート回答とレシート投稿をすると、後日ポイントが付与される仕組みだ。「サッポロビールを購入して、そのレシートを投稿することで、商品価格と同じ値段のポイントを進呈したのですが、お申込みが殺到いたしました。お客様にとっては、大人気のビールが実質無料でもらえるという部分に価値を感じていただいたと思います」(白畑さん)昨年、横浜市では「レシ活VALUE・レシ活チャレンジ」というキャンペーンを実施。アプリや各店舗で行なっていた「ポイ活」が市区町村を巻き込む取り組みにも発展してきている昨今。主婦の節約術という概念はもうなくなり、楽しく、賢くポイントを貯めたり使ったりすることが年代を超えて広まっている。コロナ禍も落ち着き外出が増えたタイミングで、「外出時にもらったレシート」が使えることが、次のポイ活トレンドの大きな鍵になりそうだ。


ORICON NEWS / 2023年3月16日 7時30分


2023年3月15日水曜日

佐川急便を偽るフィッシング確認、注意を

 フィッシング対策協議会(Council of Anti-Phishing Japan)は3月15日、「フィッシング対策協議会 Council of Anti-Phishing Japan|ニュース|緊急情報|佐川急便をかたるフィッシング (2023/03/15)」において、佐川急便を偽るフィッシングの報告を受けていると伝えた。メールの件名として、以下が確認されており注意が必要(下記以外の件名が使われている可能性もある)。


【お荷物お届けのお知らせ】

佐川急便-お荷物お届けのお知らせ

確認されている偽サイトとしては、次のURLが挙げられている(下記以外のURLが使われている可能性もある)。


http://sagawa-●●●●.top/login.php

https://zololl●●●●.top/


報告されている詳細内容は次のとおり。

重要な荷物の配達ができなかった旨のメールが送られてくる。再配送を手配するためにリンクをクリックするように促している。リンク先はフィッシング詐欺サイトになっており、個人情報の窃取やクレジットカード情報の窃取などが行われる

2023年3月15日の時点で、フィッシングサイトは稼働している

本件に関しては佐川急便も「佐川急便を装った迷惑メールにご注意ください|お知らせ」において注意するように呼びかけている。フィッシング詐欺に使われているWebサイトは一見しただけで判別することが難しい。真偽の確認を行うには、メールやメッセージに含まれているリンクからたどるのではなく、公式アプリやWebブラウザに登録したブックマークなどからアクセスするなどの操作を行い、確認を行うことが望まれる。フィッシング対策協議会は、フィッシングサイトやフィッシングメールを発見した際には同協議会まで報告して欲しいと呼びかけている(参考「フィッシング対策協議会 Council of Anti-Phishing Japan | 報告」)。



マイナビニュース / 2023年3月15日 17時13分


2023年3月12日日曜日

「高学歴なのに、なぜか仕事の役に立たない人」に共通する特徴。コミュ力は学べない

 ◆「頭が切れるが役に立たない」は何者か

元Microsoft社員・ジョエル・スポルスキ氏の著書『Joel on Software』内での発言を掲載したツイートが話題になっている。そこには「博士号を持ち、大企業に勤務している人は実用的ではない」と指摘して、そういう人を「頭が切れるが役に立たない」と一蹴するものだった。確かに学歴の高さや勤務先の企業のランクに惹かれて採用したものの、期待していたような活躍はできないケースはあるかもしれない。実際、同ツイートには「こういう人は周りにいすぎて笑う」というツイートも寄せらている。そもそも、“頭が切れるが役に立たない人”とはどういう人なのか、また“頭が切れるが役に立たない人”にならないためにどうすれば良いのかだろか。『一生仕事に困らない[最強の自分]の作り方』(コスミック出版)の著者で、これまでにさまざまな組織に携わってきた田 美智子(でん・みちこ)氏に話を聞いた。

◆企業側の問題が大きい

まずジョエル・スポルスキ氏の指摘の妥当性を聞くと、「博士号を取るくらいの人なら、知的好奇心や学習欲、知性、学力、執念など多くの能力があると思います。にもかかわらず、大企業において活躍できていないということは、企業側が人材の能力を適切に見極めることができておらず、適正配置を行えていない可能性があると思います」と分析。次にジョエル・スポルスキ氏が指摘する“頭が切れるが役に立たない”という人物像を掘り下げる。「能力がないわけではなく、特筆した才能や専門的な知識などを持ちつつも、それをどこで発揮したら成果に結びつけることができるのかを自分でも認識できていない可能性もあります。自分が合わないと感じていれば、『どこの部署ならできるか』と考えて、『あの部署なら合いそうだな』と導き出し、上長や人事に配置転換を要請するのではないでしょうか。ただ、それを言い出すことのできない消極的なタイプである可能性もあります。元来の内気な性格のケースもありますが、自分の能力を信じることができなくなり、自己効力感が下がっている状態かもしれません。また、スキル的には問題がなくても、コミュニケーション能力に課題があるため、管理側と噛み合っていない場合もあります」

◆もたらすデメリットは

頭が切れるけど役に立たない人が職場にもたらすデメリットはあるのか。「自分の得意とする専門分野では、誰よりも知識や知見があるという傲慢さが無意識のうちに出てしまい、本人はそのつもりはなくてもどうしても自慢をしているかのように雄弁に語ってしまったりすることはあるかもしれません。それによってチームメンバーに対してマウンティングしてしまい、チームビルディングに亀裂を入れかねません」と回答。

「また、特定の狭いコミュニティの中で研究などを長くしてきた結果、多様性への理解が乏しく、性別や年代、ルーツが異なる人に対して失礼な質問をしてしまったりすることも過去に見てきました。私の関係していた人も同僚に対して『あなたは精神病ではないですか?』と突然本人に聞いたり、女性に対して容姿の優劣の話をしたり、『この年代はこうだ』と決めつけたりなど、コミュニケーションに違和感を覚えるケースは珍しくなかったです」

◆学校教育の問題も

企業側が適材適所に配置できていないことが、“頭が切れるが役に立たない人”を生んでしまう大きな要因なのかもしれないが、他にも要因はありそうだ。「日本の学校教育ではコミュニケーションを学ぶ機会は少ないです。特に正解を求める教育が中心なので、日常で何かをするにもすぐに正解や答えを求めがちです。欧米などを中心として海外では自分の感情や考えを伝えたりすることが当たり前で、学習するうえでも相手の意見を聞き尊重するコミュニケーションが基本です。ずっとロジカルに正解を求められる教育を受けてきたことで自分が感じていることを言葉にして表現することや、自分の表現によって相手に影響を与える力は日本人は相対的に弱いのかもしれません」適切なコミュニケーション能力を学べなかったことが大きいようだ。

◆役に立たない人材にならないためには

ちなみに役に立つ人材とはどういった特徴があるのか。田氏は「課題を解決する能力のある人、新たなアイデアや企画を立てて実行する人、コミュニケーション能力の高い人、気遣いができて笑顔で職場の雰囲気を良くする人などが挙げられます」という。「気遣いができて笑顔で職場の雰囲気を良くする人に関しては、周囲のやる気を出させてくれる存在です。仮に当人自身が成果を出していなくても、職場においては役に立つ人と思ってもらえる存在となり、それ自体が成果となるでしょう。つまりはこれらに当てはまらない人は役に立たない人材になっている可能性が高いです」とはいえ、知らず知らずのうちに自分自身が役に立たない人材になっている可能性もある。「役に立っていない人材になっていないか?」「組織に貢献できているのか?」を客観的に見つめ直すためには必要なこととして、「まずは上司や同僚、後輩など周りの人に対して『今の自分がどう見えているのか』を率直に聞いてみることです」と提案。「私も自分がどう見られているのかのアンケートはこれまでに何度も行ってきました。正直、やる前は『そんなのみんな本当のことなんて言ってくれないでしょう』と思っていましたが、『自分をもっと成長させたいと思っていて、これから悪いところは変えていきたいと思っているから率直に教えて欲しい』と意図と目的を伝えて聞いたところ、改善ポイントをたくさん教えてもらいました。

もちろん自分では全然思ってもないこともあったので正直ショックを受ける回答もありました。ですが、それでも『相手が自分のために時間を使って言いにくいことを伝えてくれたのは一つの愛だ』と思って受け入れました。とても勇気がいりますが、自分のことを客観的に自分だけで理解しようとすることは無理です。他者からどう見えているのか、それを知ることが自分を知る第一歩となるでしょう」

◆採用人事が持つべき視点

最後に田氏は、役に立つ人材なのかを見極める方法を採用人事に寄り添った目線で説明した。「出身大学や専攻やスキルだけではなく、人間性の部分が重要となります。例えば、何に自分の価値を感じているのか、何が好きなのか、どういう時に幸せを感じるのか、過去に人にしてあげて自分自身が良かったと思ったエピソードなどを聞く。どのような行動をとってその時何を感じたのかを掘り出すことが重要です。頭の中で考えていることだけでなく、実際にどういう行動をしたのかというところがとても大切。考えるだけなら誰でもできますが、動くことができる人は少数です。そこを徹底的にヒアリングしましょう」役に立たないとされている人も環境が変われば輝くことはできる。まずは自分が今働いている部署が自分に合っているのか考えてみると良いかもしれない。

取材・文/望月悠木

【望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。

日刊SPA!/2023年3月10日 8時54分


2023年3月3日金曜日

メリットだらけにみえるが…来年スタート「新NISA」に潜む“2つの落とし穴”【投資のプロが解説】

 近年認知度が高まり、徐々に始める人が増えている「NISA(少額投資非課税制度)」。しかし、デメリットも少なくなかったことからこれが大幅に見直され、2024年から「新NISA制度」が導入されることとなりました。今回は、鎌倉投信の代表取締役社長である鎌田恭幸氏が、この新NISA制度に潜む「2つの落とし穴」を解説します。

〇来年から始まる「新NISA制度」…主な変更点は?

金融業界では、令和5年度税制改正に盛り込まれた「資産所得倍増プラン」の実現に向け、目玉施策である「新NISA制度」への関心と、その準備に向けた機運が高まっています。つみたてNISA(年間投資上限額40万円、非課税期間20年)と一般NISA(年間投資上限額120万円、非課税期間5年)のいずれか1つを選択する 現行のNISA制度は、令和6年(2024年)1月から主に以下のような点が変わろうとしています。「1.「成長投資枠」と「つみたて投資枠」に枠組みが変わり、その併用が可能 」「2.年間投資上限額が、最大360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)に大幅に拡大」「 3.非課税保有期間の無期限化」「 4.生涯非課税限度額が設定され、最大1,800万円に(非課税限度額は生涯利用可能であり、「簿価(=取得価額)」で総枠が管理され、保有する有価証券をいったん売却して再投資した場合も適用されるなど、非課税枠の再利用が可能)」「 5.制度の恒久化」このこと自体は、現在のNISA制度と比べると利便性も高まり、個人投資家の資産形成に大きく貢献する可能性があるので、筆者は好ましいと考えます。その一方で、個人投資家や運用商品を提供する資産運用会社は、次のような落とし穴に入り込まないように、自らの投資姿勢をしっかりと持っておきたいところです。

〇新NISA制度の「2つの落とし穴」

1.投資家…販売会社による「囲い込み」

NISA口座が複数の金融機関で同時に利用できないことから、1,800万円の投資資金の総取りを狙って、金融機関による獲得競争が激化することが想定されます。その際、成長枠については株式投資も可能なため、株式を扱える証券会社の営業マンから「銀行などの他の金融機関よりも有利である」などといった誘い文句が聞こえてきそうです。また、違う観点からは、「簿価(=取得価額)」で総枠が管理されるため、短期売買を目的とした投資勧誘や、個人投資家のリスク許容度や運用姿勢などに適合しない投資勧誘が増えることも気がかりです。そのため個人投資家は、本当に顧客の立場に立って運用商品を提供したり、説明責任をしっかりと果たしてくれる金融機関を選択する必要があります。筆者が経営する資産運用会社でも新NISAに係る勉強会などを実施していますが、書籍を読んだり、そうした勉強会に参加したりするなどして、自ら改めて考えて資産形成に取り組むことが肝要です。「自ら考えること」は、資産形成で成功するうえで、とても重要な要素なのです。

2.運用会社…「販売会社依存」の業界体質への逆戻り

一方、運用商品を供給する側である資産運用会社にも、新NISA制度によって明確なポリシーが求められることになります。富裕層を除く多くの個人投資家の場合、生涯を通じた資産運用額は、新NISAの生涯非課税枠1,800万円の範囲内に収まる可能性が高いです。その結果として、NISA口座を多く保有する販売力の強い販売会社は、資産運用会社よりも立場が強くなるかもしれません。そのため、資産運用会社は、販売会社依存の体質から脱却し、資産運用会社の独立性を高め、運用力の高度化を図ろうとする現在の流れに逆行しないよう、受託者責任を強く意識したいものです。

〇より重要視される「金融教育」

こうした動きとは別に、近年、「金融教育」や「金融リテラシー」という言葉をよく見聞きするようになりました。今年度から段階的に、小・中・高校向けの教育指導要領のなかに、経済や金融の仕組み、生活設計や資産運用、さらにはキャリア形成が盛り込まれるなど、今後、金融についての学びがより身近なものになりそうです。また、学校だけではなく、社員教育の一環として「資産形成」を社員自らが考える機会を提供する会社も増えており、弊社もそうした場に声をかけられることが多くなりました。長く地道な取り組みになりますが、なるべく早い時期からお金や資産形成に係る学びに触れることは、新たなNISA制度を活かすうえで、重要な施策のひとつです。

・「金融教育」の定義

そもそも、金融教育や金融リテラシーといった言葉で表現される金融の学びとは、どのように定義されるものなのでしょうか。広く金融の学びを推進している金融広報中央委員会によると、「金融教育は、お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である」として、金融教育プログラムは「社会のなかで生きる力を育む授業である」と謳っています。筆者は、お金について考えることは、単なる知識を得ることではなく、人生そのもの、つまり自分の価値観や人生観を深めるためのものだと思ってきましたから、こうした定義に違和感はありません。一方で、学生向けの授業を「主体的に行動できる態度」や「生きる力を育む」ものにしていくためには、単に教える授業で終わらせずに、より生徒に腹落ちさせることが求められのではないでしょうか。

〇金融教育キャンプに参加して…筆者が得た「気づき」

昨年夏、ある団体が主催し、弊社が協賛する小・中学生向けの「金融教育キャンプ」に参加してきました。2泊3日で開催されたキャンプでは、前半で金融についてひと通り学んだあと、最終日には「自分や周り、社会の困りごとはなにか」という視点から自ら事業を考え、発表するというプログラムがありました。参加した子供たちは、いくぶん緊張気味のなか、一所懸命に考えた事業アイデアを披露していました。たとえば、国民が健康に暮らすための保険会社を考えた小学2年生、自由に出歩くことができない高齢者などの買い物をサポートする事業を考えた小学4年生、子供の発想力を高めるための場をつくる事業を考えた小学6年生……。筆者はその豊かな創造力とたくましさに感心しました。しかし、それと同時に、「子供たちのなかには、主体的に行動できる態度や生きる力はすでに備わっており、それを大人が教えるというのは、おこがましいのではないか。むしろ、その潜在的な力を“発揮させる場”が必要ではないか」と思ったのです。また、こうした子供達に、“表面的”な金融の知識を教えることは必要ない、とも感じました。そこで検討に値すると考えるのが、「高校にある『普通科』といった曖昧な学科をやめ、たとえば「起業科」などといった、目的を明確にした学科を設置する」という案です。大学受験を目的とした進学クラスを設置している高校はよく見かけますが、それと同じように、起業家を目指す起業科クラスをつくってはどうでしょうか。そこで、金融にとどまらず、経済の仕組みや会社経営に必要な知識を学び、社会課題やそれを解決する事業アイデアを創出し、その事業を実現するために必要な語学やITなどのスキルを自ら選択して学ぶのです。実際に会社を設立したり、学生起業家が集う海外の高校に留学したりできる仕組みをつくることもよいでしょう。この構想は、筆者の知人である山本敏行氏(Chatwork株式会社の創業者)が、起業家と投資家の育成支援に取り組むなかで提唱されているものですが、筆者もこの意見に賛成です。時間はかかると思いますが、新NISA制度と、人の自立心や好奇心などを喚起する真の金融教育とが上手くかみ合って、個人の資産形成のみならず、日本の社会・経済の発展につながることを願っています。そこに、新NISA制度の究極の目的があるのではないでしょうか。

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鎌田 恭幸

鎌倉投信株式会社

代表取締役社長

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幻冬舎ゴールドオンライン / 2023年3月3日 9時15分